属人化した業務をAIで変えるには? 思考支援モードとAIエージェント活用の考え方|第9回 エンタープライズDXセミナー より
2026年4月15日(水)に開催した、第9回 エンタープライズDXセミナー
属人化した業務を、AIエージェントでどう変えるか
――個人のAI活用で終わらせず、組織の成果に繋げる実践法
について、当日の講演内容を基にしたレポートをお送りします。
なお、講演資料については、前回のエントリ
資料公開:属人化した業務をAIエージェントでどう変えるか
― 個人のAI活用を組織成果につなげる実践法
https://www.graat.co.jp/blogs/cmowktt0h48lz0814i4qk6zmi
をご覧ください。
近年、多くの企業で生成AIの活用が進む一方で、個人レベルの成果を組織全体へ どうつなげるかが課題となっています。
本セミナーでは、Graatが1年以上にわたり取り組んできた実践をもとに、 「ワークスロップ」や「思考支援モード」、「ガイド型AIエージェント」といった考え方を通じて、 AIを組織成果へ結び付けるためのアプローチが語られました。
また、後半では実際の事例とともに、Graatが提供するAIエージェント導入支援サービス 「EBAAD(Enterprise Business AI Agent Design)」についても紹介されています。
― 本記事の構成
▹ はじめに
▹ EBAAD(エバード)
▹ Q&A
▹ おわりに
はじめに
今回のセミナーでは、Graat代表の鈴木 雄介より、
「属人化した業務をAIエージェントでどう変えるか ― 個人のAI活用を組織成果につなげる実践」
をテーマに講演が行われました。
鈴木はGraat代表を務めるほか、三越伊勢丹グループのDX推進会社で取締役を務めるなど、 コンサルタントとユーザー企業の両方の立場からDX推進に携わっています。
本講演では、生成AIの活用を個人の効率化で終わらせず、組織成果へつなげるための考え方や、 AIエージェントを活用した実践的なアプローチについて解説します。
個人のAI活用と組織成果
個人のAI活用≠事業成果
講演の冒頭では、「個人のAI活用」と「組織成果」は別物として考える必要があることが示されました。
生成AIによって、個人レベルでは明確な生産性向上が確認されています。
ガートナー社の調査では、生成AIを利用するデスクワーカーは週あたり約4時間の時間削減を実現し、その時間をアウトプット量や品質向上に充てていることが紹介されました。
一方で、チームや組織単位になると状況は異なります。同じ調査では、時間削減効果や成果への影響は限定的であり、「個人がAIを使えること」と「組織として成果を出せること」の間には大きなギャップがあることが示されています。
AI活用を組織成果へつなげるには、「個人が便利に使える状態」を超え、AIを業務や組織の仕組みへどう組み込むかを考える必要があります。
ワークスロップの増加
続いて取り上げられたのが、「ワークスロップ(workslop)」です。
ワークスロップとは、見た目は整っていても内容が十分に噛み合っておらず、 実務ではそのまま使いにくいAI生成コンテンツを指します。
たとえば、AIに提案書を作成させた場合、構成やフォーマットは整っていても、 「意図と少しずれている」と感じることがあります。 個人で利用する場合は自分で修正できますが、組織内で共有されると、 受け取った側の確認や修正が必要となり、かえって業務負荷を増やしてしまうことがあります。
2025年に米国で行われた調査では、デスクワーカーの40%が直近1か月でワークスロップを 受け取った経験があると回答しました。また、その修正や確認には平均1時間51分を要し、 42%が「送り手を以前より信頼しにくくなった」と回答しています。
AI生成コンテンツは、「それらしく見える」からこそ、わずかなズレに気付きにくいという特徴があります。 こうしたズレは混乱やフラストレーションを招き、組織全体の生産性や信頼関係にも影響を及ぼす可能性があります。
そのため、AI活用を組織成果へつなげるには、ワークスロップを前提とした業務設計が欠かせません。
人間は、どうやってAIを使うのか?
続いて、人間がどのようなプロセスでAIを活用しているのかについても説明されました。
AI活用は、「準備 → 依頼 → 評価 → 調整」の4つのプロセスで進みます。 人間は依頼内容を整理し、AIへ生成を依頼した後、その結果を評価・修正しながら成果物を完成させていきます。
講演では、この一連のプロセスを踏まえた上で、 「ワークスロップはAIそのものではなく、人間側の使い方に原因があるのではないか」 という視点が示されました。
ワークスロップはユーザー側(人間)の問題
近年、生成AIの性能は大きく向上しています。 それにもかかわらずワークスロップが発生する背景には、人間側の使い方が大きく関わっています。
仕事の内容を十分に理解しないままAIへ依頼すると、生成される内容も曖昧になります。 一方で、業務理解が深い人は、適切に依頼し、生成結果を評価・修正できるため、 より質の高い成果物につなげることができます。
つまり、AI活用によって組織内のスキルや経験の差が表面化し、場合によってはその差が広がる可能性もあります。
だからこそ重要になるのが、「個人がAIを使えること」ではなく、 「組織としてAIを活用できる仕組み」をつくることです。
解決に向けた方向性
ここまでの議論を踏まえ、講演では「では、どうすればAI活用を組織成果へつなげられるのか」 という方向性が示されました。
多くの企業では、AIツールの導入やライセンス整備、AI教育を通じて、 「個人がAIを使える状態」を目指しています。しかし、それだけでは組織成果にはつながりません。
重要なのは、AIを個々の業務へ組み込み、「業務としてAIを活用している状態」をつくることです。
そのためには、ワークスロップを抑止する仕組みや、人間とAIの役割分担を含めた業務設計が欠かせません。 AI活用を個人の効率化で終わらせず、組織成果へつなげるには、仕事そのものを見直す視点が重要になります。
その具体的な考え方として、次に「思考支援モード」について見ていきます。
AIを使いこなす「思考支援モード」とは
AIを組織成果へつなげるための考え方として紹介されたのが、「思考支援モード」です。
「思考支援モード」はGraat独自の呼称ですが、その考え方は既存研究やAI活用の知見をもとに整理されたものです。
AIの使い方を意識する
ここで示されたのが、「AIの使い方には二つのモードがある」という考え方です。
一つは、「作業代行モード(Substitution / Automation)」です。
文章作成、要約、翻訳、コード生成など、成果物そのものをAIへ生成させる使い方を指します。 AIは大量の処理を高速に実行できるため、作業効率を大きく高められます。
もう一つが、「思考支援モード(Augmentation)」です。
こちらは、AIを“考えるための補助”として利用する考え方です。 論点整理や別視点の提示、見落としの指摘などを通じて、AIとの対話から自分自身の考えを深めていきます。
重要なのは、どちらが優れているかではなく、目的に応じて使い分けることです。 AIを組織成果へつなげるには、「作業を代行させる」だけでなく、「人間がより良く考えるためにAIを活用する」という視点も欠かせません。
モードを使い分ける
目的に応じてモードを使い分ける上で重要なのが、「準備」と「評価」です。
成果物の生成は作業代行モードが得意ですが、その前段階の「準備」や、 生成結果を確認する「評価」では、思考支援モードが力を発揮します。
AIによる成果物の品質は、「使う人がどれだけ仕事を理解しているか」に大きく左右されます。 そのため、成果物を生成する前に目的や確認すべき事項を整理し、生成後は適切な観点で評価することが重要です。
こうした「準備」と「評価」のプロセスを支援するのが、思考支援モードの役割です。
思考支援モードへの入り方
思考支援モードは、特別なツールがなくても実践できます。
重要なのは、AIに答えを作らせるのではなく、「考えるための問い」を返してもらうことです。
たとえば提案書を作成する場合、いきなり「提案書を書いてください」と依頼すると、テンプレート的な成果物が生成されやすくなります。その結果、「それらしく見えるが、目的に合っていない資料」になってしまうこともあります。
そこで、
- 私の指示があるまで成果物は作成しない
- まず進め方を提示する
- 不足情報があれば先に質問する
といった形でAIへ依頼します。
するとAIは、
- この資料の目的は何ですか?
- 対象者は誰ですか?
- 相手にどのような行動を取ってほしいですか?
といった問いを返しながら、考える順番をガイドしてくれます。
このように、AIへ答えを求めるのではなく、考えるプロセスを支援してもらうことが、思考支援モードの特徴です。
人が能動的に関わった方が成果が高くなる
近年の研究では、人が能動的にAIへ関わるほど質の高いアウトプットにつながる一方で、 受動的にAIの出力を受け入れてしまうほど、ワークスロップにつながりやすくなることが分かっています。
その背景には、人間が認知負荷を下げようとする性質があります。
生成AIが手軽に利用できる環境では、「なんとなく良さそうだから」とAIの出力を受け入れてしまい、 十分な検討や評価を行わないまま利用してしまうことがあります。 講演では、この傾向を「自動化バイアス」と呼び、人間はAIの出力を過信しやすいことが紹介されました。
だからこそ重要なのは、人間が能動的に考え続けることです。 しかし、それを常に人間だけで行うのは負荷が大きいため、AIに思考プロセスを支援させるという考え方が生まれました。
便利なAIがあるからこそ、答えを求めるだけではなく、「考えることを支援してもらう」という使い方が重要になります。
ガイド型AIエージェントを活用する
ここまで、ワークスロップの背景や、人間がAIへ受動的に依存しやすいこと、そして「思考支援モード」の重要性について見てきました。
後半では、思考支援モードを実際の業務へどう適用するのかを考えていきます。
企業の固有業務でAIエージェントを活用する
ここまで見てきた内容は、比較的一般的な生成AIの活用方法です。
目標設定や自己評価、提案書の作成などは、生成AIでも一定の支援が可能です。
しかし、企業固有の業務では事情が異なります。
企業には、それぞれ独自の仕事の進め方や判断基準、暗黙知、例外対応があります。 そのため、どれだけ高性能なAIでも、こうした背景知識がなければ実際の業務を適切に支援することはできません。
つまり、AIを業務で活用するには、企業固有の知識や仕事の進め方をAIへ教える必要があります。 こうした理由から、企業固有の知識やルールを反映した専用のAIエージェントが求められています。
AIエージェントとは
AIエージェントを業務で活用するには、その前提となる「LLM(Large Language Model)」の特性を理解しておく必要があります。
LLMとは ―――
現在の生成AIの中核となっているのが、LLM(Large Language Model)です。
LLMは、「与えられた文脈の続きを生成すること」に特化した技術です。
講演では、その特徴を「知性というより、“続きを話したがる妖怪”ぐらいに考えた方がいい」と表現していました。
この例えが示すように、LLMは人間のように世界そのものを理解しているわけではありません。与えられた文脈から、もっとも自然な続きを生成することに特化しており、情報の真偽を判断したり、自ら目的を考えて行動したりすることはできません。
そのため、時間の経過や環境の変化も自律的には認識できません。たとえば、「社内ルールが更新された」「数か月前の会話である」といった情報も、明示的に与えられなければ判断できません。
ハルシネーションも、「AIが嘘をついている」というより、文脈を自然につなげようとして情報を補完してしまう現象として捉えられます。
このように、LLMは非常に強力な技術ですが、その役割はあくまで「文脈の続きを生成すること」です。そのため、LLM単体では業務で必要となる判断や制御まで担うことはできません。
AIエージェントの仕組み ―――
こうしたLLMの特性を補い、業務で活用できるようにした仕組みが「AIエージェント」です。
LLMは「文脈の続きを生成すること」に特化していますが、それだけでは実際の業務を安定して遂行することはできません。
業務では、社内ルールの参照や必要なデータの取得、ツールの実行、処理内容の記録など、LLM以外にもさまざまな機能が必要になります。
そこで、AIモデル(LLM)の周囲に、ワークフロー制御やデータ参照、ツール実行、監査などの機能を組み合わせ、業務で利用できるようにしたものがAIエージェントです。
スライドでは、
AIエージェント = AIモデル + AIハーネス
という形で整理されていました。
つまり、AIモデル単体ではなく、それを支えるさまざまな仕組みを組み合わせることで、初めて業務で活用できるAIエージェントになります。
その中でも、これらの機能を支える重要な仕組みが、次に紹介する「AIハーネス」です。
AIハーネス ―――
講演では、「AIハーネス」という考え方を説明するために、犬の散歩用ハーネスが例として紹介されました。
ここで重要なのは、ハーネスは犬を完全に操縦するものではないという点です。
犬は自分で周囲の状況を判断しながら歩きますが、ハーネスは危険な方向へ進まないよう支えたり、 安全な方向へ導いたりする役割を担います。
この考え方は、AIエージェントにも当てはまります。
従来のシステムでは、「Aを実行し、次にB、最後にCを実行する」といったように、処理手順をあらかじめ固定できます。
一方、AIエージェントは、設定した手順どおりに完璧に動くことを前提とした仕組みではありません。「A→B→Cで動くように」と細かく制約しすぎると、想定外の入力や途中変更へ対応しにくくなり、かえって柔軟性を失ってしまいます。
そのため、処理手順を厳密に固定したい業務では、従来型のシステムや、定型業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)の方が適している場合もあります。
AIハーネスの役割は、AIを完全に制御することではなく、必要な制約や条件を与えながら、望ましい方向へ導くことです。
「AIハーネス」という名称には、AIを縛るのではなく、適切な環境を整え、その能力を十分に発揮できるよう支援するという考え方が込められています。
AIエージェントは育てるもの
AIエージェントは、一度構築して終わりではありません。
一般的にAIモデルには汎用的なLLMを利用するため、業務で活用するには、企業固有の知識やルールを反映した「AIハーネス」の設計・調整が重要になります。
講演では、この取り組みを「AIエージェントを育てる仕事」と表現していました。
AIエージェントは、導入しただけで期待どおりに機能するものではありません。どの業務へ適用するのか、どのような知識を与えるのか、どこまでAIへ任せるのかといった業務設計が必要になります。
また、運用を始めると、「この判断基準も必要」「この情報も参照してほしい」「このケースは例外対応が必要」といった改善点が見えてきます。こうした知見を反映しながら、AIエージェントを継続的に調整していきます。
さらに、顧客情報や個人情報を扱う業務では、出力内容の制御や監査ログの記録など、安全に運用するための設計も欠かせません。
従来のシステム開発では、処理手順をあらかじめ定義することで期待どおりの動作を実現できます。しかし、AIエージェントでは、設定どおりの振る舞いを完全に保証することはできません。
そのため、「設定する → 利用する → 評価する → 調整する」というサイクルを繰り返しながら、少しずつ精度を高めていくことが重要になります。
最初から100点を目指すのではなく、「20点 → 30点 → 40点」と段階的に改善していく。この考え方が、AIエージェントを育てる上で重要になります。
ガイド型AIエージェント
ここまで、AIエージェントやAIハーネスの考え方、 そして「AIエージェントは育てるもの」であることについて見てきました。
ここからは、AIエージェントを活用した思考支援の考え方について見ていきます。
業務でも思考支援モードは重要 ―――
AIエージェントを単純な作業代行ツールとして活用しようとすると、さまざまな課題が生じます。
代表的なものとして挙げられていたのが、「PoC止まり」「作り込みすぎ」「有識者専用ツール化」の三つです。
AIへ作業を代行させることだけを目的にすると、十分な品質へ届かず実運用へ進めなかったり、 厳密な制御を求めるあまり従来型システムやRPAと変わらなくなったりすることがあります。 また、有識者だけが扱えるAIエージェントになってしまえば、組織全体への展開も難しくなります。
こうした課題を解決するために重要なのが、AIを単なる作業代行ツールではなく、 人間の思考や判断を支援する仕組みとして活用するという考え方です。
ガイド型AIエージェントによる思考支援 ―――
PoC止まりや作り込みすぎ、有識者専用ツール化といった課題を解決するために提唱されたのが、 「ガイド型AIエージェント」です。
これは、AIへ単純に作業を代行させるのではなく、「思考支援モード」を業務へ組み込むことを重視しており、 企業固有の業務知識や仕事の進め方をAIエージェントへ反映することがポイントになっています。
たとえば、「まず何から考えるべきか」「どの順番で整理するべきか」「どこを確認するべきか」「どんな観点で評価するべきか」といった、“仕事を進めるための型”をAI側がガイドします。
ガイド型AIエージェントは、人間へ準備や評価、判断を促し、「考えるプロセス」そのものを支援します。
そのため、単純に作業を代行するのではなく、人間が能動的に業務へ関与する状態を維持しながら、AIが思考や整理を支援できるようになります。その結果、経験が浅いメンバーでも一定レベルまで業務を遂行できるようにしていくアプローチです。
育てる側と活用する側 ―――
スライドでは、「AI育成チーム」という形で、AIエージェントを設計・調整する側の存在が示されていました。 このチームには、業務設計を行う人、AIエンジニア、業務有識者などが含まれます。
特に重要なのが、有識者を「育てる側」へ配置するという考え方です。
有識者を活用側へ置いてしまうと、完成度を高く求めるあまり、 小さな改善を積み重ねる前に利用を見送ってしまい、改善サイクルが回りにくくなることがあります。 一方で、経験が浅いメンバーが活用側としてAIを利用し、判断に迷った点や使いづらかった点を フィードバックすることで、AI育成チームはAIエージェントを継続的に改善できます。
業務には、「最初に確認すべきこと」「集めるべき情報」「例外時の判断」「エスカレーション条件」など、 経験者だけが知っているコツが数多く存在します。 こうした暗黙知は、マニュアル化しても十分に活用されないことが少なくありません。
しかし、AIエージェントへ組み込むことで、利用者の理解度や状況に応じて説明したり、 何度でも質問へ答えたりといった支援が可能になります。
その結果、これまで個人の経験として蓄積されていた知見が形式知化され、 AIエージェントを通じて組織全体で活用できる資産へ変わっていきます。
AIエージェントをデザインする
ここまで、AIエージェントを組織へ活用するための考え方や、ガイド型AIエージェントの特徴について見てきました。
では、実際にAIエージェントを設計・改善するには、どのように進めればよいのでしょうか。
ここからは、講演で紹介されたAIエージェント設計の進め方について見ていきます。
3つのステップ
AIエージェントの設計・改善は、「理解する」「検討する」「試す」の3つのステップで進めます。
最初から完成形を目指すのではなく、小さく試しながら改善を重ねていくことが、 Graatの考えるAIエージェント設計の基本的な考え方です。
以下では、それぞれのステップについて紹介します。
ステップ1:理解する ―――
最初のステップは、「理解する」ことです。
ここでは、対象となる業務だけでなく、AIの特性や活用方法についても関係者全員で共通理解を持つことが重要になります。
また、「業務改善を行わず、単純に効率化だけを目指す」という考え方には限界があります。
たとえば、文章作成のような手間のかかる作業だけをAIで自動化しても、それだけでは本質的な成果にはつながりません。
重要なのは、「どのように判断するか」「どこを確認するか」「どの順番で進めるか」といった、業務の進め方そのものを理解することです。
そのため、AIを業務へ組み込む際には、AIの導入だけでなく、業務プロセスそのものを見直す視点も欠かせません。
さらに、この段階では、ワークスロップや思考支援モード、AIハーネス、「AIは与えられた条件の範囲で動く」といった考え方についても、組織全体で認識を揃えておく必要があります。
特に、人はAIへ過度な期待を抱きやすいため、「AIは人間のように理解しているわけではない」という前提を共有しておくことが重要です。
ステップ2:検討する ―――
次のステップは、「何をAIへ任せるべきか」を検討することです。
ここでは、AIエージェントが価値を発揮できる業務を見極めることが重要になります。
単純な作業代行であれば、従来型のシステムやRPAでも十分に対応できます。 近年では、RPAへAIコンポーネントを組み込み、文章理解や一部の判断だけをAIへ任せることも可能になっています。
一方、AIエージェントが真価を発揮するのは、組織固有のノウハウや有識者の経験・判断が強く関わる業務です。
特に、長年運用されてきたレガシーシステムでは、一部の有識者へ知識が集中し、 運用ノウハウが暗黙知化しているケースも少なくありません。
こうした領域では、AIエージェントによる知識継承や業務支援が大きな価値を発揮します。 また、過去の類似事例を参照したり、蓄積されたデータを検索しながら判断を支援したりすることも、 AIが比較的得意とする領域です。
そのため、AIエージェントは経験が浅いメンバーへの支援だけでなく、 有識者の判断を支援する仕組みとしても期待されています。
ステップ3:試す ―――
最後のステップは、「実際に試す」ことです。
ここでは、有識者・若手メンバー・AIエージェントを組み合わせたトライアル運用を行い、 実際の業務を通じてAIエージェントを改善していきます。
具体的には、若手メンバーがAIエージェントを活用して業務を行い、 有識者がその結果を評価し、改善点をAIエージェントへ反映します。
目指すのは、最初から100点の成果を出すことではありません。 まずは「若手+AI」で60〜70点程度の成果を安定して出せる状態を目指し、 改善を繰り返しながら段階的に精度を高めていきます。
その過程で、「この判断基準も必要」「この情報も参照したい」「このケースは例外対応が必要」といった 知見を少しずつ追加し、AIエージェントを育てていきます。
そのためには、AIを継続的に育てる体制を組織内に持つことが重要です。
こうして有識者がAI育成へ関わり続けることで、徐々に他のメンバーでも業務を進められるようになり、 個人が持っていたノウハウはAIエージェントを通じて組織全体で活用できる資産へ変わっていきます。
事例からの学び
最後に、実際の導入事例から得られた学びについて紹介されました。
特に大きな成果として挙げられていたのが、「コミュニケーションの改善」です。
有識者と経験が浅いメンバーの間では、質問する側も答える側も負担を抱えがちです。有識者は忙しく、経験が浅いメンバーも「何が分からないのか」を整理できていないことがあります。
このような場合、AIエージェントが間に入ることで、コミュニケーションは大きく改善されます。
例えば、部門横断型の業務では、受け入れ先部門の視点をAIエージェントへ組み込み、「この部門ならどこを気にするか」を事前にレビューさせることで、重要な論点を踏まえた状態でコミュニケーションを始められるようになります。
その結果、不要なやり取りが減り、本質的な議論へ集中しやすくなります。
講演では、「良いドキュメントを作ること」そのものではなく、「良いドキュメントによってコミュニケーションが改善されること」に価値があると説明されていました。こうした効果は、当初想定していた作業代行以上の成果として紹介されました。
また、「学びの促進」も大きな効果として挙げられていました。
若手メンバーはAIへ何度でも質問できます。一方、有識者は60〜70点まで整理された成果物へフィードバックできるため、より具体的で建設的な指導を行いやすくなります。
その結果、有識者は自分のノウハウを言語化しやすくなり、若手メンバーは業務の考え方を理解しながら成長できます。
さらに、「AIへ質問することはハラスメントにならない」という点にも触れられていました。AIが間に入ることで、若手は安心して質問でき、有識者も指導しやすくなります。
重要なのは、「AIエージェントがあるから人間同士のコミュニケーションが不要になる」のではないという点です。
むしろ、AIエージェントが間に入ることでコミュニケーションや学びが促進され、その結果として組織全体の力が高まっていきます。特に、日本企業のように組織間調整や暗黙知が多い環境では、この価値はさらに大きいと考えられます。
EBAAD(エバード)
今回の講演で紹介した考え方は、Graatが提供するAIエージェント導入支援サービス「EBAAD(エバード)」にも活かされています。
EBAAD(エバード)とは
EBAADは、「Enterprise Business AI Agent Design」の略称です。
本セミナーで紹介した「理解する」「検討する」「試す」という3つのステップを、 Graatのノウハウとして体系化したサービスであり、AIを理解し、 自社業務へどのように適用するかを検討しながら進められるよう支援します。
講義形式だけでなく、AIツールやAIエージェントを実際に体験しながら活用方法を検討する ワークショップも用意しており、サービスデザインの考え方を取り入れながら、 業務構造や業務フロー、判断ポイント、部門間連携などを整理・可視化し、AI適用の検討を進めます。
さらに、AI理解から業務整理、AI適用の検討、試作トライアルまでを一貫して進められることも特徴です。 試作フェーズでは、GraatのAIエンジニアがAIエージェントの構築や調整を支援する体制を整えており、 これらを約3か月のプログラムとして提供しています。
セミナーの最後には、
「自社だけで進められるのが一番理想ですが、もし外部からの支援や伴走が必要であれば、ぜひEBAADの活用をご検討ください。」
というメッセージとともに、関連するプレスリリースやブログ記事が案内されました。
Q&A
ここからは、ウェビナー当日に行われた質疑応答の内容をご紹介いたします。
Q1. AIエージェントを育成する際に、有識者の暗黙知をどのように引き出して形式知化していくのでしょうか?
A1. 暗黙知を引き出すには、「どうやっていますか?」と尋ねるのではなく、具体的なケースをもとに対話することが重要です。
有識者へ「普段どのように業務を行っていますか?」と尋ねても、十分な回答を得られないことがあります。 これは、知識や判断が当たり前になっており、自覚的に説明することが難しいためです。
そのため、
- 「このケースでは何を確認しますか?」
- 「どのような場面で違和感を覚えますか?」
- 「初心者が間違えやすいポイントはどこですか?」
といった具体的な質問を通じて、判断の根拠を少しずつ引き出していきます。
例えば、「何となく違和感がある」という感覚も、「順番の問題なのか」「対象者に合っていないのか」 「情報量が適切でないのか」と掘り下げていくことで、判断基準を言語化できます。
AIエージェントの育成でも同様です。「マニュアルを書いてください」と依頼するより、 「若手へ教えるつもりで説明してください」と依頼した方が、知見を引き出しやすい場合があります。
また、AIを利用すると、有識者がAIの出力に対して「それは違う」と反応することがあります。 その指摘には、暗黙知や判断基準が含まれています。
そのため、最初からすべてを整理しようとするのではなく、AIを活用しながら対話やフィードバックを重ね、 暗黙知を段階的に引き出していくことが現実的なアプローチです。
Q2. AIエージェントを導入した際に、現場から反発はありませんでしたか?
A2. AIそのものへの拒否感よりも、「業務が変わること」への不安の方が大きく見られました。
現場からの反発はありましたが、想定していたほどAIそのものへの抵抗感は強くありませんでした。
むしろ、
- 「自分の仕事が変わるのではないか」
- 「これまでのやり方が通用しなくなるのではないか」
- 「自分の価値が失われるのではないか」
といった不安の方が大きかったそうです。
そのため、「AIが人の仕事を置き換える」のではなく、 「AIを活用して有識者しかできなかったことを組織全体へ広げる」という考え方を伝えることが重要になります。
特に有識者へは、「あなたの価値をなくす」のではなく、 「あなたの価値を組織へ残す」という形で伝えることが効果的でした。
一方、若手メンバーは比較的前向きな反応を示しました。AIへ気兼ねなく質問できるため、 「こんな初歩的なことを聞いてよいのだろうか」といった心理的なハードルが下がり、学びやすい環境につながります。
その結果、AIエージェントが間に入ることで、お互いに話しやすくなり、 人間同士のコミュニケーションを促進する効果も見られました。
おわりに
本セミナーでは、「個人のAI活用をどのように組織成果へつなげるのか」をテーマに、AIエージェント活用の考え方や実践事例が紹介されました。
講演を通して繰り返し語られていたのは、AIを単なる作業代行ツールとして捉えるのではなく、人間の思考や学びを支援する存在として活用することの重要性です。ワークスロップや思考支援モード、ガイド型AIエージェントといった考え方は、そのための具体的なアプローチとして示されました。
また、AIエージェントは一度作って終わりではなく、有識者の知見を取り入れながら継続的に育てていく必要があります。その過程で、これまで個人へ蓄積されていた暗黙知を組織全体で活用できる資産へ変えていくことも可能になります。
AIエージェントによって人間同士のコミュニケーションが不要になるのではなく、むしろコミュニケーションや学びを促進し、組織全体の力を高めていく。そうした可能性を示したセミナーでした。
なお、本セミナーで紹介したGraatのAI業務設計サービス「EBAAD(エバード)」については、以下のページで詳しくご紹介しています。
GraatのAI業務設計 ― EBAAD(エバード)
https://www.graat.co.jp/genai
Graatは引き続き、AIエージェント活用や組織的なDX推進に関する実践知を発信してまいります。 本記事が、AI活用や組織への導入を考える際のヒントとなれば幸いです。
関連エントリ
資料公開:属人化した業務をAIエージェントでどう変えるか
― 個人のAI活用を組織成果につなげる実践法
https://www.graat.co.jp/blogs/cmowktt0h48lz0814i4qk6zmi
属人化した業務をAIエージェントでどう変えるか
― 個人のAI活用を組織成果につなげる実践法:エンタープライズDXセミナー開催のお知らせ
https://www.graat.co.jp/blogs/cmnip5yt1an9s0711payqrdum
関連ページ
AI業務設計|EBAAD (エバード)
現場の知見を「組織能力」に変えるAIエージェントデザインサービス
https://www.graat.co.jp/genai

