日本のユーザー企業でプロダクトマネージャーは活躍できないのか #pmconfjp

こんにちは。Graat執行役員の浅木と申します。これから、エンタープライズ・アジャイル関連の話題を中心に書いていきます。どうぞよろしくお願いします。

さて、いきなりですが、私は日本のユーザー企業でプロダクトマネージャーは活躍できない、と思っています。ユーザー企業というのは「収益基盤はリアル系の事業であり、情シス部門はあっても自前のエンジニアはいない」という会社のことです。世にプロダクトマネジメント事例はありますが、それは「Web企業」つまり「サービスやアプリを事業の根幹とし、エンジニアリングも内製する、イケてる会社」のものが中心です。一方で、現状、日本の産業構造の大多数を占める「ユーザー企業」において、プロダクトマネージャー(PdM)の職務を担うことには困難さを伴います。

ユーザー企業でPdMが活躍できない

「ユーザー企業」でプロジェクトマネジメントに携わることの難しさを「Web企業」と比較してみます。

「Web企業」は、事業の根幹にWebメディアやサービス、アプリを据え、それに合わせて最適化された組織を持っています。一方で、「ユーザー企業」は、リアルな設備や、人間系のオペレーションを前提とした業務プロセスを持ち、多くは、企業としての歴史も古い。組織体制と運営ルール、企業文化なども、それに応じた重厚長大なものとなります。

近年、「ユーザー企業」も、新しい取り組みを始めてはいるものの、あくまでも小さなトライです。例えば、スーツにネクタイの人たちが黙々と働くオフィスの一画に「アジャイルプロジェクトルーム」を設け、モダンな開発を頑張ることまではできます。

しかし、プロジェクトルームの外には、従来の世界が広がっています。結果、開発チームのリズムとは無関係に1年先のリリースにコミットしなくてはならなかったり、「超々概算」で出した筈の見積が独り歩きしてチームの首を絞めたり、運用部門に引き渡すために「包括的なドキュメント」作りを余儀なくされたり、関連部署の要望を全部盛り込んだ結果「MVP…?コアバリュー…?何それ、美味しいの?」的なプロダクトになってしまったり…。

「ユーザー企業」でプロダクトマネージャーという立場の方ができているのは、せいぜい開発チームの管理です。本来やるべき、プロダクトの方針決め・事業戦略立案といったことは、別部署の管掌業務だったり、「上の方」で決まってしまったりします。そして、プロダクトマネージャーは、ひたすら組織の意思決定ルールとのギャップを埋め、既存組織で受け入れてもらうための調整に多くのエネルギーを費やすのです。もちろん、「Web企業」にだってそうしたことがないわけではありません。しかし、「ユーザー企業」のそれは、比較にならない大変さです。

pmconf.jpは誰のイベント?

弊社Graatは、ゴールドスポンサーとして、プロダクトマネージャー・カンファレンスを協賛させていただきました。400名を超えるオーディエンスが、ベルサール秋葉原のホールを埋め尽くす光景は圧巻で、プロダクトマネジメントへの関心の高さを実感しました。

一方で、参加者の内訳を見てみると、「Web企業」に勤務する方が7割近くを占め、「ユーザー企業」からの参加者は全体の2割弱と少数派です[1]。残念ながら、まだまだ「ユーザー企業」では知られていないカンファレンスのようです。その理由の一端が、ここまで述べてきた「ユーザー企業におけるプロダクトマネジメントの難しさ」にあると考えます。「ユーザー企業」で、開発チームの管理と部門間調整に忙殺されている立場からは、カンファレンスで語られる先進的な事例は、遠い世界の話なのです。

もし、あなたがカンファレンスに参加した「ユーザー企業」のプロダクトマネージャーで、「なるほど、プロダクトマネージャーが本来やるべきことは分かった。でも、実践できる気がしない…」と感じたとしたら、それは、あなたのせいではありません。壇上で語られるのは、プロダクトにコミットした組織の話、あなたがいるのは、どうやって組織の中にプロダクトの居場所を作るか?に頭を悩ます世界。リアリティを感じられないのは、当然です。

逆に言うと、プロダクトマネージャー自身が頑張って実務経験を積んでも、プロダクト愛を深めても、このギャップが埋まることはありません。「ユーザー企業」におけるプロダクトマネージャーの在り方が変わらない限り、日本にプロダクトマネジメントが根付くことはなく、プロダクトマネージャー・カンファレンスが「一部の、キラキラした会社の人たちのイベント」の域を出ることもないでしょう。

組織は新しいやり方を包摂しうる

組織が変わらないと、頑張ってもムダ…?それでは、「ユーザー企業」のプロダクトマネージャーは、絶望に打ちひしがれるしかないのでしょうか?私は、「ユーザー企業」のプロダクトマネージャーにできることは、まだまだあると考えています。

まずは、大きな組織の中でのプロダクトマネージャーの立ち位置を、構造的に理解しましょう。

「ユーザー企業」におけるプロダクトマネージャーには、4つの機能があります。

  • 顧客・市場のニーズやフィードバックを受けること
  • 開発チームにプロダクトの価値を伝え、開発の優先順位を決定すること
  • 経営への説明責任を果たしたり組織の意思決定ルールに適応すること
  • サービス提供に伴うオペレーションを担う部署との調整を行うこと

まず、この構造をしっかりと理解してください。その上で、各々の機能において何をしなければならないかを明確にします。それをやりきるには、おそらく一人の人では無理です。ですから、次にやるべきことは、複数人で職務に当たることです。こうして、プロダクトマネジメントの機能を充足させて行くと、組織適応においてネックとなる箇所が見えてきます。それを見つけたら、組織運営ルールの手直しを働きかけることができます。

大きな組織というのは、堅牢であるが故に、アジリティに欠けることは否めません。一方で、組織の堅牢さを担保する包括性は、組織自体が「新しいやり方」を包摂する能力の結果とも言えます。こうした特性を理解し、AsIsの組織運営ルールを是としつつ、チームのやり方との接点を取って行くことが、組織が変わるためのきっかけとなるのです。

プロダクトマネジメントをあらゆる企業に

プロダクトマネジメントの分野においては、プロダクトマネージャー・カンファレンス2018でスピーカーを務めるような「Web企業」が、「ユーザー企業」に大きく先行しています。今後も、多くの「Web企業」が生まれ、成果を上げて行くことでしょう。新しく、勢いのある会社が、目覚ましい業績を上げ、企業価値を向上させることは、伝統ある企業が変わるための重要な動機付けになります。

こうして刺激を受けた「ユーザー企業」が、組織を変容させ「プロダクト型組織」の顔を併せ持つようになれば、いずれは「Web企業」「ユーザー企業」といった括り自体が意味をなさなくなります。そうなった暁には、プロダクトマネージャー・カンファレンスというイベントも、本当の意味で「日本のプロダクトマネジメントシーンに関わるすべての人」のためのものとなることでしょう。

遠くない未来に、そんな日を迎えられるよう、私たちGraatは「ユーザー企業」の組織変容をお手伝いして行きたいと考えています。

  • [1] 主催者提供のデータを、弊社で分析・分類したものです