エンタープライズアジャイルに適したバックログ管理方法
前回エントリー 「スプリントバックログを活用して強いチームを作ろう」では、チームを活性化するタスクアサインについてお話しました。
今回は、どうやったら、このタスクアサインがうまく回るのか、について説明します。
強いチームを作るスプリントバックログとは?
「オープンなタスクから、自分で取る」タスクアサインでは、スプリントバックログの「見え方」が重要な意味を持つ、と私は考えています。そのためには、どんなツールでスプリントバックログを管理するかがとても重要です。
「ツールは手段に過ぎない。本質は、中身でしょ」と思われますか?
では、ここで2つの画像をご覧ください。
この2つは、アジャイル開発に取り組み始めたチームでよく見かける、スプリントバックログの例です。
この2つのスプリントバックログ、中身はまったく同じです。けれど、ずいぶん印象が異なりますよね。
ここで、新しいタスクに担当者をアサインするとしましょう。
Excelのリストであれば
- フィルターでステータス列=未着手の行のみを表示
- アサインを決定
- 担当者列に入力
というやり方になるでしょう。
どうしても、「仕事に人を当てはめる」というイメージが強くなります。
誰か一人が代表して操作した方が効率が良い、というのも、よろしくありません。
このスプリントバックログを見ながら、スタンドアップミーティングを行ったとしたら、どうでしょう?
「タスク3-2、私がやります」と手を上げるのは、ちょっと勇気が要りそうです。むしろ「このタスク、担当はどうする?」と、誰かが口火を切ってくれるのを待ちたくなります。
こうして、「一人でしゃべっているスラムマスターと、立たされている人たち」的なスタンドアップミーティングが繰り広げられる現場、わりと良く見かけたりします。
一方、壁に付箋であれば
- TO DOの付箋の中から、各自、自分のやるものを取る
- DOINGレーンに移動させ、付箋に見積り時間と自分の名前を追記する
という感じでしょうか。文字通り、「人がタスクを取る」UXです。
この場合、操作に明確な順序性がないため、複数の人が同時に動き回ることになります。こうして生まれる「適度なカオス状態」が、スタンドアップミーテイングの「場」を温めます。人が動くことで、メンバー同士の会話が生まれ、自発的にタスクを選択する際の心理的な抵抗を小さくしてくれます。
チームを活性化する上で、どちらのスプリントバックログが適しているか、明白ですよね。
「ツールは手段に過ぎない。本質は、中身でしょ?」に対する、私の答えは、こうです。
もちろん中身が大切です。しかし、ツールも同じくらい大切です。
特に、人の認知を変えようとしているのなら、「見え方、感じ方」は、決して些細なことではありません。
「壁に付箋」は万能ではない
とすると、スプリントバックログは、付箋に書いて壁に貼るのがベスト…?
必ずしもそうとは言い切れないのです。
「付箋に書いて壁に貼る、アナログ派」VS「ツールを使って管理する、デジタル派」、両派の間には、古来?から議論が絶えません。
(実際、弊社のコーチ、コンサルタント陣の中にも、アナログ派とデジタル派が混在しています)
私の考えは、エンタープライズアジャイルという文脈においては、スプリントバックログは、デジタルツールで管理した方が良い、というものです。
アナログの良さは、ここまで縷々述べて来た通りです。
問題は、エンタープライズスケールの開発には、アナログでは対応しきれない要件があるということです。たとえば、
- 「プライオリティが高いのに未了」のものがないか、チェックするために、タスクを優先順位順に並べたい(タスクの数が多いと、アナログでは把握しにくい)
- スプリント全体の工数の予実差を確認したい(同じく、タスク数が多いと大変)
- そもそも、オフィス内に「壁」がそんなにない(笑)
などなど。壁に付箋のアナログ管理は、大企業に特有の要望には、弱いのです。
エンタープライズアジャイルには、適切なデジタルツールが必要
そこで、私は、アジャイル開発に最適化されたツールの利用を推奨しています。
ここからのお話は、弊社がソリューションパートナーを務めるAtlassian社の製品、JiraSoftwareの紹介、はっきり言うと宣伝です。
とはいえ、私がお伝えしたいことの本質は、特定の製品に依存するものではありません。あなたのチームに合わせて、適切なデジタルツールを選定していただければ、それで良いと思います。
先ほどと同じスプリントバックログを、JiraSoftwareで管理すると、画像のような見え方になります。
2つの画像は、同じスプリントバックログを異なるビューで表示したものです。
アジャイルボードビューは「壁に付箋」の優れたメタファーになっています。見た目のみならず、ドラッグ&ドロップでタスクを移動させる操作性も、アナログ方式と共通しています。
一方で、バックログビューの方は、Excelに近いリストイメージで、スプリントの総工数や残工数が自動的に計算されます。
このほか、
- プロフィールアイコンで、誰がどのタスクをやっているか、一目でわかる
- 必要なスキルセットなど、タスクアサインの参考にしたい情報を視覚的に表現することができる
- ビューやフィルターを設定することで、チームのニーズに合わせた情報加工が可能
といった機能も、便利です。
本来的には、デジタルツールの有無は、アジャイル開発とは無関係です。(デジタルだけどアジャイルなチームも、アナログでアジャイルじゃないチームも、どちらも存在します)
しかしエンタープライズアジャイルをきちんとやり切るのであれば、適切なデジタルツールの活用は、大前提と言ってよいでしょう。
ただし、デジタルツールを導入するタイミングについては、注意が必要です。
次回は、そのあたりにも触れながら、スプリントバックログ(およびプロダクトバックログ)のさらなる有効活用の例として、「スクラムチーム外のステークホルダーとのコミュニケーション」を取り上げます。
次回エントリーは2019年3月4日公開予定です。よろしければ、またチェックしてみてください。
Jira Softwareについては、こちらにも情報を記載しています。