日本企業における「アジャイル組織」導入の勘所

5年以上前
浅木 麗子
執行役員
浅木 麗子

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前回エントリーに続いて、日本のユーザー企業でエンタープライズアジャイルを実現するための五つのステップ(詳細はこちら)の最終ステップ「組織のアジャイル化」を解説します。
今回は、「組織のアジャイル化」における注意点を説明します。具体的には、以下2点に焦点を合わせて行きます。

  • IT開発の内製化は、どこまで必要か
  • 「リーダーのいないチーム」は、組織として機能するのか

完全内製化は、必須要件ではない

前回エントリーでは、「Spotify」モデル組織の最小単位であるSquadについて「プロダクトやサービスのバリューストリームに関わるすべてのロール」が一つのチームを形成する、と説明しました。 この説明を聞いて、まず頭に浮かぶ疑問は「チームメンバーは、全員社員なのか?」という点ではないでしょうか。

日本のユーザー企業において、プロダクトやサービスに関わるIT業務が完全に内製化されている例は、一般的とは言えません。
組織体制の話を脇に置いたとしても、そもそもアジャイル開発において、内製化は必須なのか?という問いは、多くのチームが抱えている疑問でしょう。

内製化については、様々な意見がありますが、私自身は「100パーセント内製でなければ、アジャイル開発ができない」とは考えていません
前提として、弊社のお客様の多くは、従業員数が数千名から数万名、場合によっては十万名を超えるような、いわゆる「大企業」である、という点には、注意が必要かもしれません。この規模の企業では、すべてのIT関連業務を内部要員だけで賄うことは、現実的はありませんし、その必要もないと思います。
肝心なのは、「何パーセント内製しているか」ではなく、「自社の競争戦略上、どこを内製すべきか」が明確になっているかどうか、すなわち「内製戦略」の有無です。

内製戦略の中身自体は、各社で異なります。しかし、最低限のラインとして、プロダクトやサービスのコアバリューを定義し、提供機能の優先順位を決める部分(スクラムの用語で言うなら、プロダクトオーナーの領域)は、人任せにしてはいけない機能です。
また、エンジニアリング領域においても、自社の重要な差別化要因となるプロダクトやサービスについては、可能な限り内製することが望ましいでしょう。
自社にとっての「可能な限り」とは、どの程度か、そして、それをどのようなステップで実現するのか、そこが、各社の内製戦略の中身です。

裏を返すならば、何をどの程度内製化するかが決まっていないとしたら、組織設計の前に、この点を明確にする必要があるということです。

「中間管理職のいない組織」を機能させる、ガバナンスの考え方

続いて、「組織の最小単位最には、リーダーやマネージャーがいない」という点についてです。
100名程度の組織(INGグループの例では150名前後とも)に管理職が一人だけ、という人員構成は、日本の伝統的企業の常識では、かなり変則的に見えるでしょう。

ここで重要なのは、「Spotifyモデル」におけるガバナンスの考え方を理解することです。あるいは、組織におけるマネージャーの役割と言い換えても良いかもしれません。
日本の伝統的な企業におけるマネージャーの役割は、大まかに言って以下のようなものです。

  1. 経営目標から導き出される組織目標や、事業および業務の方針をメンバーに伝える
  2. 現場業務の管理監督を行う
  3. メンバーの育成を行う
  4. 人事評価を行う

これらを「Spotifyモデル」に当てはめると、
  • 1の一部をTribe Leadが実施する(一部は、チームが行う)
  • 2は、チームが実施する
  • 3は、メンバー自身が実施する
  • 4をChapter Leadが実施する
ということになります。
1の一部(自チームの目標を具体化する)と、2「管理監督」および3「育成」は、チームやメンバーが自律的に行うものであり、マネージャーが第三者的に実施する業務ではありません
(もう少し正確に言うと、四半期ごとの経営層によるレビューや、Guildの果たす役割等もあるのですが、ここでは、日本企業のラインマネージャーとの対比を明確にするために、単純化します)

つまり、「Spotifyモデル」の組織においては「マネジメント業務」の範囲がかなり限定されており、その結果として、人数もさほど大勢は必要ないということなのです。

現役のマネジメント層以上の方は、チームのメンバーがここまで自律的に業務を遂行できるものか?と懸念を抱くかもしれません。
しかし、チームの自己組織化は、アジャイルプロセスを正しく推進して行けば、むしろ必然的に得られる結果と言って差し支えありません。
これは、様々な現場のアジャイルチームを支援して来た実感として、自信をもって申し上げることができます。

エンタープライズアジャイルを実現するための五つのステップの、ステップ1(アジャイル開発導入)からステップ3(バリューストリーム全体のアジャイル化)において、本当にやるべきことは、アジャイルなワークスタイルを実践できるチームを作ることです。
タイムボックスを守ることや、アジャイルプラクティスを実践することが目的化し、「アジャイルという新たな規律」をメンバーに守らせようとするマインドが、組織内に広がっていないでしょうか?

「なぜアジャイルなのか」を愚直に問い続け、自分たちが腹落ちするチーム運営を見つけること、その後に「器」ともいうべき組織の形を、チームに合わせて変える進め方が、アジャイル組織導入の王道なのです。

さて、ここまで4回に渡って「エンタープライズアジャイルの五つのステップ」を解説してきました。次回以降は、アジャイル組織の設計や運営のポイントを掘り下げて行きます。次回エントリーをお楽しみに!
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