組織を変えるとはマインドセットを変えること。初めての #RSGT2020 参加レポート

4年以上前
斎藤 紀彦
アジャイルコーチ
斎藤 紀彦

こんにちは、アジャイルコーチの斎藤です!

当記事は、弊社もロゴスポンサーとして参加した、先日1/8(水)〜1/10(金)にかけ開催された Regional Scrum Gathering Tokyo 2020 の参加レポートです。
多くの方が言及されている通り、全体的に「人、組織、マインドセット」にフォーカスしたセッションが多い印象でした。
どのセッションも本当に素晴らしかったですが、当記事ではとりわけ印象に残ったJames "Cope" Coplien(以下Copeさん)とMichael K Sahota(以下Sahotaさん)による2つのキーノート及びきょんさんの「チームの再定義 -進化論とアジャイル」についての参加レポートを書きたいと思います。

Keynote "The Ten Bulls of the Scrum Patterns" by James "Cope" Coplien

Copeさん

一言でいえば、スクラムの守破離に到るためのステップを十牛図(=禅の悟りいたる10段階)に喩えたスピーチでした。

スクラムのイメージを刷新する

みなさんはスクラムに「自分たちをスクラムという窮屈な型に当てはめる」というイメージはないでしょうか? 私はありました。
これはそんな私たちのスクラムのイメージを逆転し刷新してくれるようなスピーチでした。
Copeさんが「本来の自分に従うことがスクラムであり、それ以外はすべてメソッド」と語っていた通り、彼にとってスクラムとは自分たちを型に当てはめるものではなく、むしろ「真の自身(True self)」になるためのツールなのです。具体的には、最初はスクラムのロールやイベントを厳格に適用する必要がありますが、次第にスクラムの背後にある「WHY(なぜ)」を理解し、そして自分たちのコンテキストに最適化する中で最後にはスクラムもいらなくなると語られていました。

Copeさんはそれを指してスクラムを「門」と喩えていましたが、個人的にはウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』の有名な一節を思い出していました。

梯子を上りきった者は梯子を投げ捨てねばならない。

門

真の自身になること

「真の自身」とは何か?

では、Copeさんが言う「真の自身」とは何でしょうか? それは「組織やマーケット等といった自分たちのコンテキストにとってベストな方法を自分たちで見つける」という意味ももちろん含まれていますが、個人的にはより深い意味が込められていると感じました。それはたとえばCopeさんが引用した禅の「無為」、きょんさんが引用した進化論の「本能」、心理学の「無意識」、 NVC/共感的コミュニケーション の「ニーズ」が個人的に「真の自身」に近いイメージです。

なぜ「真の自身」になることが重要なのか?

現在の私の見方では、理由は3つあります。1つ目は、パフォーマンス向上のため。コーチングでよく言われる、無意識(潜在意識)にフォーカスすることがパフォーマンスを向上させるという観点です。※ そして2つ目はエゴがなくなることによるコミュニケーションの向上です。「真の自身になった」個人やチームは意識的なエゴが薄い状態なため、組織内メンバーのマインドセットや利害の対立を中和する役割を果たす可能性が高い。私はCopeさんが言っていた「自然にマーケットや組織と調和している」状態をこのように解釈しました。そして3つ目は、それは私たちにとって心から楽しいことだからです。

とはいえ色々と書いてきましたが、まだまだ理解が追いつかず、まだ混乱が続いているというのが本音です。
とにかくすごいスピーチでした!

※. NBAHigh-Performance Mindfulness: Energy Psychology – The NBA’s Best Kept Secret

Keynote "Lost in Translation: The Manager’s Role in Agile" by Michael K Sahota

Sahotaさん

Sahotaさんのスピーチは「既存の組織/ルール/文化あるいはシステム群と共存し融合させながら」組織文化を変革するミッションを掲げた弊社メンバーの自身にとって今回最も共感できたスピーチでした。

  • 組織を変革する際、急激なネットワーク型組織やティール組織への転換がTRAP(罠)であること
  • ボトムアップアプローチは限界があり、本当の意味で組織を変えるためにはトップから変革する必要があること
  • マインドセットの変換が鍵であること

以上はSahotaさんのスピーチの要約ですが、本当にそうなのですよね。
経験の中で、大企業を変えることは決して大袈裟なことではない、ミクロはマクロに通じる、メンバーひとりひとりのマインドセットを変えることが重要、具体的にはキーマンに共感をもって接する必要があるのではないかと思い熱心にNVCを学習している私にとっても、とても共感した内容でした。

「マネージャーを含め一人の脱落者も出さない」と言うSahotaさんと「マネージャーは全員クビにしろ!」と言うCopeさんのスピーチは表面的には対照的ですが、マインドセットや真の自身という観点において深いところで通底する同じコインの表と裏のようなスピーチと感じます。

Sahotaさんはマネージャーのマインドセット変革を支援するプラクティスとして「傾聴」や「コーチング」や「メンタリング」を挙げていましたが、今回のスピーチをきっかけにそれらのマインドにフォーカスしたプラクティスの重要性がますます注目されるとうれしく思います。組織を変える際に個人のマインドにフォーカスすることは、優しさからだけではなく、極めて合理的な戦略です

マインドセットが鍵

チームの再定義 -進化論とアジャイル by きょん

きょんさん

淋しいのはお前だけじゃない

アジャイル界のトップランナーきょんさんによる、進化論や生物学をベースとしたチーム論。
「進化論や生物学をベースとしたチーム論」という難解に聞こえますが、実際のスピーチはチームが解散した後もどうやってチームであり続けるかという刺激的かつ楽しい論考で、いまだに前職のチームメンバーと開発したり散歩したり毎週のように会っている淋しがりやの私にとっても共感して聞くことができました。

ただ淋しがりやなのは私だけではなく人類の生物学的本能であり、その本能をうまく取り入れたからアジャイルはこれだけ広範囲に受け入れられたのではないか? というのがきょんさんの仮説の一つです。たとえば、アジャイルマニフェストの4つ中3つは人と関わることについてのステートメントですし、全員同席やペアプロなどのプラクティスもスキルトランスファーといったメリットからではなく、実は「人と一緒にいたい」という目的からたまたま生まれたものではないかと言ってました(あとからご本人に聞いたところそれはまるで「猿の毛繕い」みたいなもの)。思わず笑ってしまったと同時に、自分自身を鑑みても一理も二理もある仮説と感じました。

スケーリングスクラム手法としての「複数プロジェクトScrum」

アジャイルコーチ的な観点からいえば、きょんさんが考案した「スクラムを複数チームでそのままやる、違いはイベントに他のチームがいるだけ」という「複数プロジェクトScrum」というプラクティスはスケーリングスクラム手法としても大変興味深かったです。SAFe、Scrum@Scale、LeSSなどのさまざまなスケーリングスクラム手法がありますが、「複数プロジェクトScrum」はシンプルなアーキテクチャーを追求するきょんさんらしいシンプルかつ美しいプラクティスだと思いました。もちろん機能させるにはチームの成熟度やイベント時間が短いことなどさまざまな前提があると思いますが、導入を検討する価値が高いアイディアと感じました。

複数プロジェクトScrum

さいごに

今回はRegional Scrum Gathering Tokyo 2020の参加レポートを書きました。
本当に素晴らしいイベントで、夢のような3日間でした。
この素晴らしいギャザリングに参加させていただいた会社のメンバーに深く感謝すると同時に、今後はGraatとしてももっと貢献したいと強く感じました。
最後に、運営委員、ボランティアスタッフのみなさま、本当にありがとうございました!

筆者

Graat

『0か1か』ではなく『グラデーションがある』と考えて次の一手を選ぼう。JMXによるアトラシアン製品(Jira)の監視
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