アジャイル と生産性・2 - アジャイル導入効果を測定する成果指標設計のコツ

5年近く前
浅木 麗子
執行役員
浅木 麗子

アジャイルを導入すると、チームの生産性は向上するのか?

前回エントリーでは、この問いかけに答える形で、以下の論点について述べました。

  • 生産性には「物的生産性」と「付加価値生産性」の二種類があること
  • アジャイル導入においては、両者が混在して使われるために混乱が生じていること(目標と成果指標の「ねじれ」)
  • 目標と成果指標の「ねじれ」の背景には、伝統的な機能別組織構造があること

今回は、アジャイルプロセス導入の目的である「付加価値生産性向上」とマッチした成果指標を設計する方法を解説します。

が、その前に、目標と成果指標の「ねじれ」が生じる理由について、少しだけ補足説明を加えます。

定量評価したいのにできないジレンマ

目標と成果指標の「ねじれ」が生じる背景には、前回エントリーで触れた「機能別組織構造に基づく分業」に加え、もう一つの要因があります。 それは「付加価値生産性の向上」目標を定量的に評価すること自体の難しさです。

企業会計における「付加価値」とは、分かりやすく言うと、売上総利益(粗利益)を意味します。 これは「いくら」という金額で表されるものですから、付加価値それ自体については、定量評価の難しさはありません。

しかし、付加価値やその向上に対する、特定部門(情報システム部等)、特定機能(ソフトウェア開発等)の貢献度を定量化する、となると話が違ってきます。

会社全体や事業単位で算出される利益額に対して、「そのうち、いくらを特定部門(特定機能)が上げたか」を明らかにすることは不可能です。

そこで、何らかのモデル化が求められるわけですが、売上や利益に関係する各部門の貢献度を数値化し、ビジネス部門の貢献度は何パーセント、IT部門の貢献は何パーセントなどといった係数を設定することの無意味さについては、細々と説明するまでもないでしょう。

一方で、組織運営ルールにおいては、定量化された尺度によるチームや人の評価が推奨される例は多く見られます。 結果として、計測しやすい「物的生産性」関連の成果指標が設定され、目標との「ねじれ」が生じる、という構造があります。

言い換えるなら、付加価値生産性向上を定量評価したいのだが、うまくできないジレンマです。

定性的な活動を定量的にとらえるフレームワーク

そこで、私たちが推奨するのがOKRの考え方を採用した指標設計です。

OKR(Objectives and Key Results)は、組織や事業の目標からトップダウンでチームや個人の目標を設定する手法です。
(すでに多くの識者による解説が公開されていますので、OKRの詳細については、それらをご参照いただければと思います)

私は、OKRの特徴は、以下の点にあると考えています。

  • 組織全体の売上のような「遠くの目標」とチームや個人の活動との繋がりをわかりやすく構造化できる
  • 価値やビジョンのような定性的な目標を計測可能な活動にブレイクダウンできる

Graatでは、OKRのフレームワークを利用して、プロダクトやサービスのビジョンから、四半期ごとのリリースロードマップを導き出すワークショップを提供しています。
ここで言う「リリースロードマップ」は、どのユーザーストーリーをリリースに入れるべきか、という具体的なアクションプランであり、OKRの特徴の一点目(「遠くの目標」と身近な活動の関係を構造化する)に着目したワークです。

これがOKRの「王道」の使い方なのですが、最近では、OKRの特徴の二点目(定性的な目標を計測可能な活動にブレイクダウンする)を生かして、OKRのフレームワークを成果指標設計に転用する支援例も増えつつあります。

その手順は、おおよそ次の通りです。

  • ステップ1:最上位のO(Objective)を設定する(例:プロダクトやサービスの売上目標、利益目標など)
  • ステップ2:成果指標設定における優先順位決定の基準について、チームで議論して合意する
  • ステップ3:最上位Oの達成に寄与する活動を洗い出し、その活動を評価する定量化指標(KRs:Key Results)を設定する
  • ステップ4:ステップ2で決めた基準を参考に、ステップ3で設定したKRsの中から、重点的に取り組むものを選択する
  • ステップ5:前のステップで選択したKRをOとして、さらにその実現に寄与する活動を洗い出す
  • ステップ4と5を数回繰り返し、アクションアイテムとして適切な粒度までブレイクダウンする
  • 最終的に選択したアクションアイテム(3〜5個)については、計測方法や計算式を定義して、定量化指標とする

    OKRの考え方を応用した成果指標設計

OKRを応用した成果指標設計の注意点

OKRを目標管理のツールとして使う場合には、KRに定量化可能な項目を設定することが重要ですが、OKRの考え方を成果指標設計に応用する際には、逆に、定量化するステップを絞ることが重要です。

具体的には、上で紹介したステップ4と5(O→活動のブレイクダウンを複数回繰り返し、アクションアイテムの粒度まで分解するプロセス)においては、あまり定量化を気にする必要はありません。

ステップ4と5では、定量化よりもOとアクションアイテムの因果関係を突き詰めて考えることの方が大事です。

Oとアクションアイテムの因果関係を突き詰めることによって、チームや個人の日々の業務が、どのような帰結によって最上位O(売上や利益等)の達成に寄与するのか、という論理構造を緻密に組み立てて行きます。

ここで組み立てた論理モデルが妥当であれば、モデルを構成するあらゆる活動を計測、定量化するような労力はかけず、ざっくり最上位と最下位のみを計測すれば良いという考え方です。

定量化するステップを絞る

指標設計のアンチパターン

逆に、やってはいけないのが「定量化にこだわりすぎて、O→活動の分解ができない」という罠にハマることです。

チームによっては、KPIツリーを設計し、アクセス解析用のサービスやツールを使って日々KPIのトラッキングを実施している、というケースもあるでしょう。
この場合、KPIの粒度には注意が必要です。たとえKPIが階層化されていたとしても、それだけでは、ブレイクダウンが十分にできているとは言い切れません。
その目標を達成するための活動が紐付いていなければ、チームの成果指標としては、まだブレイクダウンが不足していると考えてください。

ブレイクダウンがうまくできないチームを観察すると、KPI=定量化指標という固定観念にとらわれて、指標を活動に分解するところで行き詰まってしまう傾向が見られます。
いったん「定量化」のことは忘れて、何をしたらこの指標が改善されるかを考えましょう。

この時、プロダクトやサービスに関わる複数部門や機能のメンバーが一同に介してワークを行うと効果的です。 が、いきなり多くの部門を集めることが難しい場合は、自部門や自チームの活動に絞って洗い出すところから始めても、十分な効果は得られるはずです。

ぜひ、知恵を絞って、チームメンバーの日々の業務に紐つく階層まで、ブレイクダウンを繰り返してみてください。

なお、今回ご紹介したOKRワークを無料で体験できる「体験セミナー」を、以下の通り開催予定です。

  • セミナータイトル:目標管理(OKR)活用体験セミナー - 価値あるプロダクトを生み出すディスカバリーの実現
  • 日時:2020年2月21日(金)13時30分〜17時
  • 場所:西新宿
  • 登録:https://connpass.com/event/165478/ *募集期間が終了しました


体験セミナーの題材は、成果指標設計ではなく、プロダクトビジョンからリリース計画へのブレイクダウンなのですが、OKRの考え方自体は共通のものです。 ご興味のある方は、ぜひご参加ください。

さて、今回のエントリーでは、「付加価値生産性向上」という目標に対するチームの貢献度を定量的に評価するための指標設計の考え方について説明してきました。
次回は、使いやすいKR(成果指標)の例を解説したいと思います。

デブサミ2020に弊社代表 鈴木雄介が登壇しました『0か1か』ではなく『グラデーションがある』と考えて次の一手を選ぼう。
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