リレーブログ#01 情報と戦略:私たちのチームが動きにくかったワケ - Graatサイド

約3年前
浅木 麗子
執行役員
浅木 麗子

「3つのレイヤー」による情報整理の有効性

リレーブログの初回では、おおよそ以下のようなポイントが述べられていました。

  • 事業運営の中で取り扱われる情報を分類するにあたり「ペースレイヤリング」の考え方を応用すると、以下の3つのレイヤーを定義することができる
  1. Pace: Fast → デイリートランザクションレイヤー
  2. Pace: Medium → タクティカルレイヤー
  3. Pace: Slow → マスターレイヤー
  • 自社の情報共有や情報蓄積をこの3つのレイヤーに当てはめて考えると、改善点を見つけやすくなる
  • HYCでは「マスターレイヤーの情報をどのようなタイミングで、どのような形で伝える/蓄積するかが設計されていない」と気づいた
  • 不足していた部分を補う上で、ツール(Confluence)のテンプレートを活用すると効率がよい

この分析の白眉は、情報を分類するにあたり「ペース」(変化率)という普遍性の高い要素を取り入れている点だと思います。
このことにより、「3つのレイヤー」を使った情報の整理は、取り扱うドメインや組織の大小を問わず、幅広く応用できる汎用的なフレームワークになっています。

そして、このフレームワークを使ってものごとを眺めると、多くのチームに共通する課題が浮き彫りになります。それは、タクティカルレイヤーの不在です。


イケてない情報整理の実例

話をわかりやすくするために、実例をあげましょう。
この画像は、私が所属するチームの情報共有のためのConfluenceページの一部をキャプチャーしたものです。

私たちのチームの情報整理.png


この情報構造を「3つのレイヤー」に当てはめてみたのが、次の画像です。

3つのレイヤーに当てはめた分析.png

私たちが蓄積・共有している情報の構造には、 タクティカルレイヤーが抜けている ことがわかります。


「3つのレイヤー」が浮き彫りにした「私たちのチームが働きにくかったワケ」

私がこのことに気づいたのは、HYCさんのConfluence活用方法を紹介していただいた時でした。

同じツールを使って、似たようにミーティング記録の管理を行なっているのに、私たちのチームとは決定的に違う点があったのです。
それは、案件ごとの サマリーページの有無 です。

HYCさんのConfluenceには、案件ごとに、上位の戦略との関連や、スコープ、顧客の期待、どのように成功を判断するか、既知の前提と検証が必要なこと、といった、 日々の活動の指針となる情報 をまとめたサマリーページが作られていました。

これは、Confluenceに標準的に用意されている「テンプレート」の一つである「プロジェクトポスター」をカスタマイズしたものでした。

「プロジェクトポスター」テンプレート.png



すでにお気づきかと思いますが、このサマリーページが、が タクティカルレイヤー に該当する情報です。

私たちのチームは、ここを明文化せず、機械的に「顧客名」の下に訪問記録を蓄積していました。
その結果、チームのは次のような困りごとに直面していました。

  • 「客先でこんな問題が発生したので、こう対処をしたい」という相談に対して、「なぜその選択肢?むしろこっちを優先すべきでは?」と異論が出て、議論に時間がかかる
  • 顧客への支援成果報告をまとめる際、「最初に設定した支援のゴールは何だったっけ?」と過去のミーティング記録を漁らなければならない

あなたのチームは大丈夫?

実は、こんな困りごとは、私たちのチームに固有のものではありません。
私の知る限り、スクラムチームの多くが、同じ根を持つ課題を抱えています。

  • 次のスプリントにどのPBIを入れるべきか議論が紛糾して、決め手がない
  • スプリントごとにレトロスペクティブをやって改善を重ねてきて、もうやるべきことが見つからなくなった

こうした問題に悩まされているチームは、多いことと思います。
目に見える事象は違っていても、これらの問題は、私たちのチームの困りごとと共通する構造を持っています。
それは、チームメンバーの目から見て、日々の業務というデイリートランザクションレベルの活動と、プロダクトのビジョン・中長期的な方向性といった戦略レベルの情報とのつながりが見えにくく、行動の指針が曖昧になっているという点です。

多くの場合、マスターレイヤーの情報は、リーダーや一部のメンバーによって行われた意思決定の記録という形をとります。
一方で、デイリートランザクションレイヤーの情報は、メンバーの日々の業務から生じます。

そして戦略と日々の活動の橋渡しをするのがタクティカルレイヤーの情報です。

タクティカルレイヤーの情報を明文化するためには、マスターレイヤーに属する戦略やビジョンの理解が必要であるため、ここにはリーダー層の関与が必要となります。
しかし、組織の大小を問わず、リーダーというのは例外なく忙しいものです。

このため、戦略と日々の活動の関係を整理する情報は「口伝」で伝えられるのみ、というケースが多くなりがちです。

結果として、 マスターレイヤーとデイリートランザクションレイヤーの乖離が生じ、チーム活動の効率を阻害するという構造 です。


情報整理を効率化するConfluenceテンプレート

この問題に対処するために、HYCさんが選択した手段が Confluenceテンプレートの活用 でした。

先に紹介した画像をご覧いただくとわかる通り、プロジェクトポスターというテンプレートには、プロジェクトの指針として一般的な項目が用意されています。
「戦略と日々の活動の橋渡しをする情報は何か」などという抽象度の高い命題にゼロベースで取り組むよりは、先人の知恵を活用して効率化を図る方がずっとスマートです。

もちろん、Confluenceが提供するテンプレートは、タクティカルレイヤーに限定されるものではありません。
「スプリント計画ミーティング」「ふりかえり」などのスクラムチームのデイリートランザクションレイヤーにベストマッチするテンプレートや、「ビジネスプランのワンページャー」「ビジョンから価値へ」といったマスターレイヤーに属するテンプレートなど、豊富なラインナップが揃っています。


リレーブログ01.5として、Confluence導入とスケールの上手な進め方を説明しています。テンプレート活用以外にも様々な注意点を紹介していますので、よろしければ併せてお読みください!

もし、あなたのチームが情報共有や情報蓄積に問題意識をお持ちなら、そして「メンバー間の対話とリーダーからの情報発信」以外の有効な手立てを見つけられずに困っているのなら、ぜひ 「3つのレイヤー」を使ったチームの情報構造分析 と、 Confluneceテンプレートを活用した情報整理 を試してみてください。

これまでの取り組みの「歩留まりの悪さ」から来る閉塞感に風穴を開けるようなブレイクスルーが得られることでしょう。

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