アジャイル時代のリーダーシップとしての「弱さを見せる」技術

3年近く前
斎藤 紀彦
アジャイルコーチ
斎藤 紀彦

アジャイル組織やチームを支援する中で、マネジメントやリーダーから相談される事が多いトピックの一つとして「チームメンバーの活気がなく、チームとして一体感に欠ける」があります。
今回は、チームがそのような状態に陥っており、様々な手法を試したもののいまいち改善されていない方に向けて、私が開発チームリーダー時代によく利用していた方法をご紹介します。

それは、リーダーやチーム内で「高い位置」にいる人が「弱さを見せる」ことです。

しかし、私が知っているリーダーは、ーー優秀であればあるほどーー「弱さを見せる」ことに苦手意識がある方が多いと感じます。
なぜなら「弱さを見せる」ことは、一般的にリーダーに求められる「リーダーは弱さを見せてはいけない/常に強くなければならない」というメンタルモデルと正反対の態度だからです。

そこで今回は、リーダーが「弱さを見せる」ことの重要性と、明日から実践できる具体的な方法をご紹介します。

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なぜリーダーが「弱さを見せる」ことが重要なのか?

リーダーが「弱さを見せる」ことの重要性は様々な書籍に書かれています。

たとえば、ダニエル・コイルの『THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』では、チームビルディングの最も重要なスキルの一つとして「弱さを共有すること」が挙げられています。

なぜそれが重要かといえば、誰かが弱さを見せることは、それを見た誰かがまた弱さを見せ、お互いの協力関係を産み、チームが加速するという「弱さのループ」という好循環を発生させるからです。

「たいていの人は、『弱さを見せる』と聞くと、べたべたした馴れ合いのような人間関係を連想する。しかし、それはまったくの誤解だ」とポルザーは言う。
「むしろ『自分には弱点があり、助けが必要だ』という明確なメッセージだ。それがチームの中で当たり前の態度になれば、不安や恐怖を忘れ、お互いに信頼し、協力して働くことができる。反対にリーダーが弱さを隠すと、他のメンバーも同じようにする。そうなると、どんなに小さなタスクでも、不安を生むきっかけになるんだ」
(ダニエル・コイル (2018). 『THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』 かんき出版 )

また、ロバート・キーガンとリサ・ラスコウ・レイヒーによる『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる』では、多くの組織で「自分の弱さを隠す」ことに時間とエネルギーが費やされているため、リーダー自らが弱さを見せることで、メンバーが自分の弱さを隠さずにいられ、より価値あることに集中できると主張されています。

皆さんも、リーダーがふとした瞬間に見せた弱さが、メンバーの緊張を解き、メンバー同士の距離を縮めるきっかけになった経験はないでしょうか?

「弱さを見せる」ための具体的な方法

さて、これまでご紹介した本には「弱さを見せる」方法として、「自分の失敗談を共有する」ことや「自分の深層心理にある不安や協力な固定観念に気づくためのワーク」が紹介されていますが、「弱さを見せる」ことに苦手意識を感じる方には少しハードルが高い方法だと感じています。
そこで、ここからはそんな方でも比較的すぐに取り組みやすいような、チームを活性化させるための具体的な方法を2点ご紹介します。

1. わからないことを質問する

わからないことを質問することは、「自分にはわからないことがあるので、あなたに頼らなければならない」という弱さの開示につながります。
前述の『THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』 では、ユナイテッド航空232便での機体トラブルにおいて、はじめは一人で全てをコントロールしようとした機長が「誰かわかる人がいないか?」と言ったことがきっかけで事態が好転したことが生々しく描かれています。
また、私自身も、アジャイルコーチとして現場でアドバイスをする前に、わかった気にならずに「その発言をした意図は何でしょうか?」「この機能はどのような背景がありますか?」などわからないことを丹念に聞くことを心がけています。

2. 協力を求める

協力を求めることもまた、「自分一人では物事を達成できないので、あなたの力を借りなければならない」という弱さの開示につながります。
ここで私自身の例もご紹介します。
以前、開発リーダーとしてビジネスの仮説検証を含む開発プロセス策定を指示された私は、一人では難しいからと10歳年下のチームメンバーに協力をお願いし、ホワイトボードの前で、自分が考えた開発プロセスがうまくいくかどうかを2人で何度も話し合いました。
結果、そのプロセスはうまく機能し、チームに一体感が生まれ、KPIを10倍に引き上げることになりました。
このように、リーダーが1人で抱え込んでいることや、メンバーに指示していたことを「自分一人ではできないので、協力して欲しい」という姿勢に変化させるだけでも、チームは劇的に良い方向に向かうでしょう。


今回は、リーダーが「弱さを見せる」ことの重要性と、弱さを見せることに苦手意識がある方も比較的すぐに取り組みやすい方法をご紹介しました。
もちろん、ここで述べたことはリーダーに限らず、メンバーもすぐに実践することができる内容です。
今日ご紹介した方法が様々なチームで「弱さのループ」を産み出し、チームビルディングが加速するきっかけになればと願ってやみません!!

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