リレーブログ#09 自律的なチームを作る情報設計

9日前
浅木 麗子
執行役員
浅木 麗子

スクラムチームが直面するパラドックス

HYC吉田さんは、前回エントリー

リレーブログ#08 情報化社会の人財開発
の中で、フレームワークを活用した社内情報設計の重要性に言及し、特に「戦略的な情報に関してフレームワークを活用することが大事」と述べています。

これは、昨今のITチーム、特にアジャイル開発を実践するチームにとって、非常に重要なテーマであると、私は考えます。

アジャイル開発を実践するチームは、従来のプロジェクト型開発とは異なり、「ここまで行けば目標達成、プロジェクト解散」という明示的なゴールを与えられていません。
企業の事業活動は常にムービング・ターゲットを追いかけるものですから、こうしたチームのあり方は、よりビジネスの実態に即したものと言えるでしょう。

その一方で、チームがいわば「ゴーイング・コンサーン」に基づく存在となることで、拠り所とすべき「プロダクトのビジョン」「戦略」「ビジネスモデル」などについては、トップから発信される機会が減っていき、メンバーの意識も薄れがちになるケースも多いように思えます。

タイムボックス型の開発サイクルを安定的に実施できているチームほど、メンバーは、目の前のゴールに集中し、短期的な成果を上げ続けることで達成感ややりがいを持って仕事に取り組みます。
こうした「目先の充実感」が、中長期的なゴールが曖昧であることの問題を見えにくくするパラドックスが起きているのです。

たとえば、以下のような問題を感じているチームは、注意が必要かもしれません。

  • バックログアイテムの優先順位付けについて複数部署の意見が対立し、落とし所が見いだせない
  • 新たなフィーチャーのアイディアがなかなか出ない
  • スプリントレビューが盛り上がらない

ペースレイヤリングで見えてくる、チーム情報の「穴」

思い当たる節がある、という方に試してみていただきたいのが、ペースレイヤリングを使ったチーム情報の整理です。

この連載ブログの第1回
リレーブログ#00 情報と戦略:私たちのチームが動きにくかったワケ
でも取り上げられたペースレイヤリング、記憶に残っているでしょうか?

ペースレイヤリングは、大まかにいうと、変化のスピードに応じてものごとを分類するフレームワークです。
HYC吉田さんは、これをチームの情報設計に応用し、3つのレイヤーを提唱しています。

  • デイリー・トランザクション・レイヤー(Pace: Fast )
  • タクティカル・レイヤー(Pace: Medium )
  • マスタレイヤー(Pace: Slow)

下の図は、スクラムチームの取り扱う情報を、吉田さんの提唱する3つのレイヤーにマッピングした例です。

スクラムチームのペースレイヤリング例.png

一口に「スクラムチーム」と言っても、プロダクト運営のサイクルに応じて、情報の変わりやすさ(変化のスピード)は異なります。
ここで紹介する例は、いわゆるエンタープライズスケールの企業が運営する、比較的大規模なプロダクトを想定しています。
このため、Pace:Mediumを四半期から半期程度としていますが、チームによっては3ヶ月以上はPace:Slow と捉える場合もあるでしょう。

このあたりは、実情に合わせて調整していただくとして、重要な点は、変わりやすさ(変化のスピード)を切り口に、チームの情報を分類してみるアプローチです。

そして、さらに重要なことは、それぞれのレイヤーに具体的なファイル名や文書名など、情報の「実体」をマッピングしてみることです。

このワークをやってみると、多くのチームがある気づきに直面します。
それは、マスターレイヤーに該当する情報の「実体」が少ないということです。

このレイヤーに属する情報は、明文化されていなかったり、チーム発足当初のドキュメントが更新されていない、あるいは、一部の人しか文書の在り処を知らない、などの問題を抱えていることが多いようです。
特に、プロダクトビジョンなどの「ビジネスより」の情報や、チームのグランドルールなどの抽象度の高い情報について、この傾向が顕著です。

チームの情報設計に必要な2つの視点

チームの日常的な活動との関係で言うならば、「デイリー・トランザクション・レイヤー」の情報は、主に活動に伴って発生する「アウトプット」に該当し、「タクティカル・レイヤー」は、チーム活動の直接的な「インプット」となります。

一方で、「マスター・レイヤー」の情報は、チームの価値観や行動の指針を示すものです。
チーム活動の直接的なインプットではないけれど、ここが明確になっているのといないのとでは、メンバーの動きやすさは大きく違ってきます。

言い換えるなら、本エントリーのタイトルに掲げた「自律的なチーム」を実現するためには、「マスター・レイヤー」の情報がとても重要ということになります。

「マスター・レイヤー」の情報が浸透しているチームでは、メンバーは、日々の活動の拠り所となる価値規範やプロダクトの目標を理解し、一人ひとりが自分で考えて動くことができるのです。

「チームの情報管理を改善する」というテーマに取り組むとき、ITチームの多くは、設計ドキュメントやインシデント、チケットなどの整理・分類方法に着目します。 ペースレイヤリングの枠組みに沿って分析すると、これらは「タクティカル・レイヤー」と「デイリー・トランザクション・レイヤー」の話です。

もちろん、チームの日常的な活動に直結する「タクティカル・レイヤー」と「デイリー・トランザクション・レイヤー」の情報設計は、重要なテーマです。
しかし、これらがチーム情報のすべてではありません。

チームの情報設計について考える際には、バックボーンとなる「マスター・レイヤー」の情報がきちんと明文化され、誰もがアクセスできる状態になっているかどうかについても、忘れずに考えていただきたいと思います。

さて、今回は「フレームワークを活用した社内情報設計」の一例として、スクラムチームのペースレイヤリングについて解説してきました。

次回は、HYC吉田さんにバトンを渡し「優秀なリーダーが抱える落とし穴」について語っていただきます。

そして、次々回では、「フレームワークを活用した社内情報設計」の後編として、情報アーキテクチャ(IA)のフレームワークを応用したITのチームのドキュメント管理とツールによる実装を取り上げたいと思います。
次回もぜひお読みいただけますと幸いです。

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