リレーブログ#13 自律的なチームを作る情報設計(3)
HYC吉田さんの 前回ブログ では、仕事を進める上で重要な「問いかけ」をフレームワークに組み込むことで、エンパワメントを実現するという興味深いテーマが語られました。
一方、私の方は3回に渡って「チームの情報設計」の手法をご紹介していますが、実は、吉田さんと私の扱う話題には通底するものがあります(リレーブログですから、ないと困りますが)。
ではその「通奏低音」とは何かと言えば、それは チームの情報設計に潜むインストラクション だと思っています。
チームの情報設計は、単なる手法にとどまらず 「チームの情報を誰が分類しますか?それをどのように分類しますか?」という問いかけ を含む重要なメッセージです。
仕事の進め方そのものに対する問いというよりは、チームのあり方に対する問いかけの要素が強いのですが フレームワークに組み込まれた「無垢な問い」 という意味においては、共通するものがあると言えるでしょう。
今回は、Confluenceの機能を交えて「探しやすく使いやすい情報分類」の実例を紹介しながら、情報分類が発する「問いかけ」についてもあわせて解説して行きます。
チームの情報の例
ここでは、下図のような情報を扱うチームの例を取り上げます。
このチームでは、Confluenceを使って文書を管理しています。
画像の例では、下記の文書が「ドキュメント」というページ配下に格納されています。
- 目的と概要
- ステークホルダー
- 業務フロー
- 用語の定義
- 作業手順1
- 作業手順2
- 作業チェックリスト
- 注意事項
検索ニーズの例
このチームのAさんは、作業1を担当するグループに属しています。
近々、グループが増員され、別の部署から異動してくるBさんが一緒に作業を行うことになる予定です。
そこで、新メンバーであるBさん向けに、チームの業務の全体像と作業1の詳細な手順を伝える必要があります。
従来の情報分類であれば、Bさんに対するガイダンスは
「Confluenceの『ドキュメント』というページに、必要な文書が揃っているので、ここを一通り見ておいてください」
という感じになると思います。
このガイダンスも悪くはないのですが、少し不親切であることは否めません。
それは、「ドキュメント」配下に
- 異なる粒度の情報が混在している(「目的と概要」「用語定義」「業務フロー」など、チームの業務全体を扱う文書もあれば、「作業手順」「チェックリスト」といった一つ細かい粒度の文書もある)
- 当座の目的には不要な情報も混じっている(Bさんにとっては「作業手順2」などは、今は要らない情報)
というところに起因します。
あいまいな分類の例
ここで、Confluenceの 「ラベル」 と 「コンテンツレポートテーブルマクロ」 という機能を使うと「あいまいな分類」を実現することができます。
※「あいまいな分類」の詳細については、私の前回エントリー でご確認ください。
Confluenceの「ラベル」とは、ここまでの説明で「タグ」と表現してきたものとほぼ同義です。情報コンテンツや添付ファイルに付加するキーワードで、一つの情報コンテンツに複数のラベルを付けることもできます。
ラベルに関する詳しい説明はこちら
そして「コンテンツレポートテーブルマクロ」とは、特定のラベルのついたコンテンツのみを選択的に表示することのできるビュー(これを「コンテンツレポート」と呼びます)を生成する機能です。
コンテンツレポートテーブルマクロに関する詳しい説明は こちら
ラベルとコンテンツレポートテーブルマクロを組み合わせると、情報の物理的な構造に依存せず、目的に応じた柔軟なコンテンツリスト(Confluenceの用語では「コンテンツレポート」)を作成することができます。
先ほどの例で言えば、
- 「チーム業務の全体像をざっと理解するための情報」に「newcomer」というラベル
- 「作業1を実施する人向けの情報」に「manual01」というラベル
を付加します。
それぞれのコンテンツレポートを作成したのが、下の画像です。
この状態であれば、Bさんへのガイダンスも、よりきめ細かなものになります。
「まずは、『チームの業務概要』を一通り読んでください。これで業務の全体像がわかったら、次に『作業1のマニュアル』に目を通すと、担当してもらう作業の進め方がわかると思います」
というふうに。
あいまいな分類がチームを育てる
ここで重要な点は、たとえば「用語の定義」などのように、 どちらのリストにも登場する文書がある ことです。
これはつまり「用語の定義」はどの分類に属する情報か?という問いに対して、 たった一つの「正解」を出さなくてもよい というメッセージなのです。
冒頭で、情報管理のやり方は「チームの情報を誰が分類しますか?それをどのように分類しますか?」という問いかけである、と申し上げた所以は、ここにあります。
チームの情報は、本来、メンバーの目的や文脈に応じて様々な意味をもつものです。
タグやメタデータなどがコンテンツの見せ方を動的に制御する機能は、このシンプルな事実をデジタルデータの格納と参照という実装に落とし込むことにより、 「チームの誰もが、自分の使いやすいように情報を分類してよい」という価値規範を示す ことができる、すぐれたしくみです。
「あなた自身が情報の意味を考え、文脈に応じた分類を作り出してください」と働きかけられれば、チームのメンバーの「情報」に対する見方、捉え方も変わってきます。
これはマネージャーが「自律したチームになってくれ」というマントラを100回唱えるよりも、よほど大きな効果を持つと私は考えています。
さて、ここまで数回にわたってご説明してきた「自律的なチームを作る情報設計」ですが、HYCとGraatは、ここで紹介した内容を含むワークショッププログラムを共同開発しました。
チームを育てる情報設計に興味を持っていただけた方は、ぜひお気軽にお問いあわせください。