リレーブログ#11 自律的なチームを作る情報設計(2)
HYC吉田さんはリレーブログ#10優秀なリーダーがハマりがちな落とし穴① 「理解」を理解することの難しさ で、多様なメンバーを含むチームのパフォーマンスを上げるためには、クエリー(情報の検索)とインプット(参照)を整えることが重要と語っています。
これを受けて、私は、クエリー(情報の検索)とインプット(参照)をやりやすくする情報分類の方法を紹介したいと思います。
IAのフレームワークを応用した情報分類
今回紹介するのは、IA(情報アーキテクチャ)のフレームワークを応用した手法です。
IAにおいては、情報の分類(コンテンツ項目を論理的にグルーピングすること)を「組織体系」と表現しますが、本稿ではより親しみやすい「分類」という言葉を使って説明していきます。
IAの考え方では、情報の分類には「正確な(客観的な)」分類と「あいまいな(主観的な)」分類の2種類があります。
正確な(客観的な)分類とは、細かく定義されたセクションに情報を排他的に分類することです。やや難解な説明ですが、日付順に並んだファイルリストをイメージするとわかりやすいでしょう。
一方で、あいまいな(主観的な)分類とは、カテゴリーを正確に定義することが難しいような分類方法です。具体例としてはトピックによる分類、タスク(やりたいこと)による分類、情報を利用する人(ロール)による分類などです。
正確な分類VSあいまいな分類
さて、ここで質問です。
「正確な(客観的な)分類」と「あいまいな(主観的な)分類」、どちらか分類手法として優れているでしょうか?
文字面だけを見ると「主観的であいまい」よりは「客観的で正確」な方が良いのでは?とも思えます。
しかし、現実に当てはめてみると、ものごとの見え方が違ってきます。
業務において何か情報を見つけようとしているとき、内容を無視して機械的に(すなわち客観的に)、日付順で並べたファイルリストを突きつけられれば、多くの人がストレスを感じることでしょう。
それよりは、何らかの観点(すなわち主観)に応じて分類されたリストの方が、欲しい情報を見つけやすいことが多いと思います。
では「あいまいな分類」の方が優れているのか?と言えばそんなこともなく、実のところ、先の質問に「正解」はありません。
「正確な分類」と「あいまいな分類」は、用途が異なるだけであって、どちらが優れている・劣っているというものではないからです。
「正確な分類」が本領を発揮する場面は、「既知情報探索」。すなわち、探している人自身が「何を探しているか」を知っており「それがどこにあるか」だけがわからないというシーンです。
一方「あいまいな検索」は「探求探索」に適しています。探求探索とは「○○に関連する情報をいろいろと調べたい(検索の「目的」だけがあり、具体的に何を探しているかはわからない)」や、「探しているものがはっきりしていても、それが何という名前で分類されているかわからない」などの、ぼんやりとしたニーズに基づく検索です。
優劣はないが、適しているかどうかは別の話
すでにお気づきかもしれませんが、ことスクラムチームの情報分類に限った話であれば、「正確な分類」と「あいまいな分類」の優劣(というか適否)は、かなり明確です。
(2つの分類に優劣はない、と言ったそばからで恐縮ではありますが)スクラムチームに代表されるような知的生産に携わるチームの情報分類の役に立つのは、間違いなく「あいまいな分類」です。
その理由は2つあります。
1つは、単純に「探しやすさ」です。
知的生産を生業とするチームでは、情報検索のニーズが「探求探索」に近いことがとても多いのです。
みなさんが最近「情報を見つけようとした経験」を思い出してみてください。それは「既知情報探索」(探しているもの、たとえばファイル名などが明確で、格納場所だけを知りたい)だったでしょうか?それとも「探求探索」(目的はあるが、具体的なファイル名などはあいまい)だったでしょうか?
知的生産に携わる読者であれば「探求探索」を行うシーンが、より多く思い浮かんだのではないでしょうか。答えがYESなら、あなたのチームに適しているのは「あいまいな分類」であると言えます。
そして、知的生産を行うチームにとって「あいまいな分類」が有効である理由の2つ目は、分類に基づく情報の構造がチームに及ぼす心理的な効果です。
正確な分類が持つ、危険な副反応
「正確な分類」に基づく情報分類では、コンテンツは一つだけの親に紐付くツリー構造で構造化されます。階層化されたディレクトリにファイルを格納するファイルサーバーが、その実装として代表的な例です。
チームの取り扱う情報が幅広く多量になればなるほど、情報のツリー構造は大きく複雑になり「気安く構造を変更してはいけない空気」を放ちはじめます。
緻密に組み上げられた巨大なツリーは、管理者に相談なく構造を変えたり、分類を追加することをためらわせ(実際、権限設定でこれらの操作を制限しているチームもあります)、ある種の価値規範形成を助長します。
ことは「情報を検索し、参照する」だけにとどまらず、「仕事の枠組みを作る側」と「作られた枠組みに則って黙々と仕事をする側」というように、チームを分断する土壌を作り出すのです。
あいまいな分類がもたらすもの
一方で、「あいまいな分類」はどうでしょうか?
「あいまいな分類」では、親子関係の概念が希薄で、一つのコンテンツが複数の分類に含まれ得ることが大きな特徴です。
こうした構造を実装するにはタグ付けやメタデータを取り扱えるツールが必要となります。また、ツールの選定に加えて、なるべくフラットに近い階層構造で情報コンテンツを整理することがポイントです。
タグやメタデータなどがコンテンツの見せ方を動的に制御するしくみは、情報の階層構造を隠蔽し(見えにくいだけで、階層構造がないわけではありません)、一見、無造作にコンテンツが並んでいるかのような印象を与えます。そして、この「きちんとしすぎない」印象が、変更に対する心理的ハードルを低くするのです。
メンバー自身が、自分たちの使い勝手に合わせて分類をカスタマイズして行くことに対して、開かれた構造であると言っても良いでしょう。
このことは、チームの自律性を育てる上で大きな意味を持っていると私は考えています。
さて、今回は、IA(情報アーキテクチャ)のフレームワークを援用しながら、スクラムチームにとって「探しやすく、使いやすい」情報分類について述べてきました。
次回は、HYC吉田さんにバトンを渡し「優秀なリーダーがハマりがちな落とし穴」について、さらに深く語っていただきます。
題して「優秀なリーダーがハマりがちな落とし穴② 情報を優秀な“インストラクター“にすることを、あなたは、まだ教わっていない」、とても楽しみです!
そして、次々回は、再びGraatがバトンを引き継ぎ、本稿で紹介した「あいまいな分類」を実装する方法とコツを解説します。
Confluenceの機能を活用し、使いやすい情報管理を行うコツを紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。
本稿の記述は、以下の書籍を参考にしています。
Louis Rosenfeld、Peter Morville、Jorge Arango 著、篠原 稔和 監訳、岡 真由美 訳
「情報アーキテクチャ 見つけやすく理解しやすい情報設計, 2020年5月