レポート:第1部 エンタープライズDXセミナー「生成AI × 要件定義」最前線 ― 価値起点で考えるDX要件定義とAIレビュー活用

約1か月前
Graat セミナー事務局
Graat セミナー事務局

はじめに

2025年7月16日に開催した、エンタープライズDXセミナー:「生成AI × 要件定義」最前線 の第1部では、DX特有の要件定義の難しさをテーマに講演を行いました。

DXプロジェクトには、業務部門・IT部門・現場担当など多様な関係者が関わるため、 課題の捉え方や優先すべき価値、既存システムの理解といった前提が揃いにくいことがあります。
このような状況では、要件定義の初期段階から「価値」と「実現手段」が混ざりやすく、 目的の共有が不十分な状態で手段が先行し、期待した成果につながりづらいという課題が生じがちです。

本講演では、こうした背景を踏まえ、価値起点で要件を整理するための考え方と、 生成AIをレビュー工程に活用する際のポイントを、ケーススタディとともに紹介しました。
本エントリでは、その概要をご紹介いたします。

― 本記事の構成

DXではなぜ要件定義が破綻しやすいのか?

DXプロジェクトでは、想定した成果につながらない要件が早い段階で固まることがあり、その背景には、要件定義の場で“価値”と“実現手段”が混在しやすい構造があるとされています。

DXは既存業務やシステムの制約を踏まえつつ新しい仕組みを検討するため、“探索的な進め方”になりがちです。 その過程で、関係者間の「課題」「重視する価値」の認識が揃わず、目的の確認より手段の議論が先に進んでしまうケースが少なくありません。

さらに、ウォーターフォール型では後から要件を修正しづらく 「とりあえず盛り込んでおく」という判断が入り、不要な要件が混在する原因にもなり得ます。

こうした事情が重なることで、DXの要件定義は、従来のプロジェクト以上に価値と手段が分離されにくく、目的が十分に共有されないまま要件が固まりやすい傾向があると言えるでしょう。

DX時代に求められる“価値ある要件定義”

DXの要件定義では、具体的な手段よりも前に“何を実現したいか”という価値を整理する必要があります。
講演ではその整理の枠組みとして、アリスター・コーバーンが『ユースケース実践ガイド』で示した5つのゴールレベルが紹介されました。

5つのゴール
  • 雲:組織の理念・ビジョン
  • 凧:実現したい行動変化や成果
  • 海面:ユーザーの状況や行動
  • 魚:実現手段の概要
  • 貝:UI・ルール・コードなど具体的要素

要件定義が位置づけられるのは、凧(価値)と魚(手段)の間にあたる海面レベルで、 価値と手段をつなぐ説明を整理する役割を担います。

― 価値と手段を分けて考えるためのフレームワーク

この考え方の具体例として、MVP(Minimum Viable Product)の“車を開発する図”が紹介されました。
要件定義ではまず「課題・実現したいこと・効果」を整理します。

車の開発-従来型の要件定義

従来型では、最初から自動車の完成を前提とし、

  • 課題=車がなくて不便
  • 実現=快適な車が欲しい
  • 効果=車で移動が便利になる

といった「手段」主導の整理になりがちです。

車の開発-DX型の要件定義

一方、DX的アプローチでは、
キックボード → 自転車 → バイク → 自動車 のように段階的に価値を検証し、

  • 課題=快適な移動手段が不足
  • 実現=快適に移動できる状態を実現したい
  • 効果=利用者の満足度向上

という「価値」を起点に要件を組み立てます。

両者を比べると、価値と手段の捉え方が大きく異なり、DXの要件定義では後者が理想の形となります。

― 価値の言語化が難しい理由と、AI活用の可能性

ただし、DXの要件定義では、

  • 手段の方が説明しやすく、そちらへ引っぱられやすい
  • 価値が仮説段階で言語化しづらい
  • 組織の方針自体が曖昧な場合が多い

といった問題点も抱えがちです。

こうした背景から、 「価値を言語化し、価値と手段を分離する」工程を支援する手段として、 生成AIの活用可能性が示されました。

生成AIは要件定義のどこに効くのか?

生成AIは、要件定義における「発想(観点出し・構造化)」「表現(記述の明確化)」 「レビュー(抜け漏れ・整合性確認)」の3点を支援しますが、特に効果が大きいのがレビューの支援です。
人間同士では避けにくい「忖度」や「思い込み」を排し、一定の観点から要件を評価することができます。

本講演では、次の5つの観点をプロンプトとして組み込み、レビューに活用するポイントが紹介されました。

  • 要件の背景となる課題は明確か
  • 実現したいことが明記されているか
  • 手段を具体化しすぎていないか
  • 課題と要件がリンクしているか
  • 期待している効果や評価方法は明記されているか

こうした観点を明文化しAIに与えることで、レビューの抜け漏れを減らし、 複数メンバー間で判断基準を共有できます。

ただし、生成AIの指摘が常に正しいわけではなく、価値判断そのものは人間が担う必要があります。 AIはあくまで“判断を補助する支援役”として活用することが重要だとまとめられました。

ケーススタディ:スニーカー専門店の要件定義レビュー

講演では、生成AIによるレビューを具体的に理解するため、 架空のスニーカー専門店を題材にしたケーススタディが紹介されました。
人気アーティストのコラボ商品が即日完売する一方で高額転売が発生し、 「本当に欲しい顧客に届かない」という課題を抱える──という設定です。

比較のために次の2つの要件定義を用意し、課題・実現したいこと・効果 の 3点を整理したうえで同一プロンプトでレビューを行いました。

  • 不適切な要件定義:抽選システムが欲しい
  • 適切な要件定義:転売目的を防ぎ、商品を欲する顧客が公平に購入できる仕組みを実現したい

この比較から、手段から入ると課題の本質が捉えにくくなる一方、 価値を起点に整理すると課題と効果の関係が明確になることが示されました。

― 各GPTモデルのレビュー傾向(2025年7月現在)

  • o4-mini:大まかな指摘に留まり、改善提案も粗め
  • 4o:過不足の少ない、バランスの良いレビューが得られる
  • 4.5:要件定義の文脈を踏まえた、精度の高い指摘が可能

特に強調されたのは『モデル差以上に “プロンプト(チェック観点)が明確かどうか” が レビューの品質を左右する』点です。
AIの改善提案は論理的に優れていても、常に正しいとは限らず、人間が判断を担う必要があります。 特に、プロジェクト固有の事情が絡む場面では、AIの提案に引きずられるリスクがあるため、 AIレビューは“支援役”とし、人間の判断力がより重要になると指摘されています。

まとめ ― 価値起点の要件定義とAI活用のこれから

DX時代の要件定義では、まず 「実現したい価値を明確にすること」が出発点になります。 課題・実現したいこと・効果を分けて整理することで、探索的なプロジェクトでも 認識のズレを抑えられます。

また、生成AIはこの“価値起点の要件定義”を支える実践的なツールとして活用できます。 要件定義の基準をプロンプトとして与えると、観点の偏りや抜け漏れを客観的に確認でき、 複数メンバーがAIレビューを通じて学習を深める仕組みとして機能します。 運用を続けるほど、レビュー精度やチーム内の理解が高まる点も紹介されました。

一方で、価値を見極める判断そのものはAIでは代替できません。
講演では、「価値がわかる人が要件定義を担う」ことが重要であり、 ビジネス部門の近くで要件整理を支援する役割が今後より求められるとの指摘がありました。

質疑応答では、既存の要件定義をAIでパターン化する案も取り上げられましたが、 抽象化や最終判断は人間が担うべきであり、AIはあくまで支援として活用するのが 現実的だとまとめられています。

Graatの取り組みと、生成AI活用支援について

Graatでは今回ご紹介した内容をはじめ、企業の業務に生成AIを組み込むための 支援を幅広く行っています。

近年、特に増えているのが、 「どの業務に生成AIを適用すべきか」を整理するワークショップ や、 自社の業務フローに合わせた専用AIエージェントの開発 です。 要件定義レビュー、UXリサーチ補助、情報整理など、導入領域は多岐にわたります。

講演内で挙げられた「要件定義を支援する生成AIツール」も 「自社のコンテキストに揃えたい」「価値起点で整理するプロセスを強化したい」 といったニーズに応じて設計され、 プロンプトやワークフローを調整しながら運用へ落とし込んだものです。

Graatは、単にツールを導入するのではなく、 “どの価値を高めるためにAIを活用するのか” を現場と一緒に設計する 「伴走型支援」を重視しています。

生成AIの活用を検討している方や 「自社の文脈に合わせてもう一歩踏み込みたい」と感じている場合は、 お問い合わせ などから、ぜひお気軽にご相談ください。

   


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