日立建機株式会社日立建機株式会社
事例紹介

対話により生み出したチームのアジリティ。日立建機がGraatと築いた、変化に強い開発文化

日立建機株式会社 グローバル営業本部 DNA開発推進部長 猪瀬聡志様(写真中央)
日立建機株式会社 グローバル営業本部 DNA開発推進部 主任 牧野淳司様(写真右)
Graat代表取締役社長 鈴木雄介(写真左・インタビュアー)
日立建機株式会社https://www.hitachicm.com/global/ja/

社会の発展とともに技術力を高め、世界中の社会インフラや産業、住宅の整備を支える建設機械をつくり、進化させ続けてきた同社。革新的で信頼性が高い製品とソリューションを組み合わせて世の中に提供し、お客さまに寄り添いながら豊かな大地と豊かな街づくりに貢献しています。

当社製の建設機械にこだわらず他社製も含めてお客様の資産すべてを一元管理し関係者を円滑につなぐことでお客様のメリットにつなげる、包括的なプラットフォーム

御社が提供されている「LANDCROS Connect」というシステムについて、ご紹介いただけますか?
LANDCROS Connectについて語る猪瀬様

猪瀬当社では昨年、社内外のあらゆるステークホルダーに「革新的なソリューションを提供したい日立建機グループの想い」の証として、「LANDCROS」という新しいコンセプトを策定しました。

その第一弾となる製品・サービスが「LANDCROS Connect」です。

この「LANDCROS Connect」は、日立建機・販売代理店・エンドユーザーを円滑につなぐことを目的とした包括的なプラットフォームで、主にヨーロッパおよびアメリカでの提供を開始しており、現在38言語に対応しています。

当社には「1台目は営業が売り、2台目はサービスが売る」という文化があります。当社製品の品質は抜群です。サービスも良い。ConSiteなど他社にはない強みもある。しかし、世界全体に目を向けると、まだ日立建機の製品に触れたことのないお客様も多く、とりわけ北米市場では「いかに1台目の日立建機を買っていただくか」が大きな課題となっています。

そこで私たちは「お客様の声」に注目しました。北米では複数メーカーの機械を組み合わせて施工を行うのが一般的ですが、それぞれのシステムが分断されており、全体の管理が煩雑になっているという声がグローバルに様々な地域から聞かれました。

この課題を突破するための“ブランドスイッチ戦略”として私たちが打ち出したのが、「LANDCROS Connect」です。

AppleがiPodを発売する前に、Windowsユーザー向けに無償でiTunesを提供し、ユーザー体験を軸に市場を切り開いていった戦略をご存じでしょうか。使いやすいソフトを無償で配布し、音楽ライブラリを構築してもらった上で、iPodやiPhoneへと体験を連携させていくという手法です。

私たちも、まさに同様のアプローチで、機械の性能だけでなく、お客様の体験価値全体をデザインし、伝えていこうとしています。

他社製品をご利用中のお客様にとっても「使いやすく、便利だ」と感じていただけるような体験を通じて、1台目の日立建機をご購入いただく。そして、その後は日立建機とそのパートナーによる製品・サービスでさらなる利便性を提供する。これが私たちの描く構想です。

現在、主に取り組んでいるのは以下の2点です。

1つ目:アセットマネジメント機能

お客様が保有する建設機械の情報を一元管理できる機能で、日立建機だけでなく他社製機械も含めて管理が可能です。ISO規格に準拠した車両位置情報や稼働データを用い、複数の現場で稼働する機械の状況をひと目で把握できるように設計しています。何より、操作のしやすさにこだわり、お客様が「まずは使ってみよう」と思える入口として提供しています。

2つ目:中古機市場向けのマーケットプレイス構想

新車の導入にハードルを感じるお客様でも、「まずは中古機からなら試しやすい」というニーズに応える仕組みです。現在はアメリカで試験的に展開しており、今後はグローバルでの流通最適化を視野に入れています。

牧野我々の部署は営業本部の配下で、単にアプリケーション開発をしているのではなく、代理店とお客さまの接点全体をなめらかにするための営業戦略の一環であると位置付けられています。顧客接点そのものを再構築していると言ってもよいかもしれません。

「エンジニアを信頼する文化」の醸成

開発体制についても、御社ならではの工夫があると伺いました。特にエンジニアとの関係性において、どのような点を意識されたのでしょうか。
開発体制について語る牧野様

猪瀬私たちは「エンジニアを信頼する文化」を根づかせることを、何よりも大切にしています。

私自身、当社に限らず多くの企業でシステム開発の現場を見てきましたが、特に違和感を覚えたのが、いわゆる下請け・孫請けといった多重構造の中で、クライアントの誤った指示がそのまま是正されることなく進行してしまうという現実です。

上からの命令通りにコードを書き、無理のある要件にも「とにかく形にしなさい」と迫られる。「1+1=3」と言われればその通りにコーディングし、あとで責任を問われないように“言い訳”としてのドキュメントを延々と書き続ける。

誰もが「このプロジェクトは危うい」と感じながらも、立ち止まって見直されることはなく、最後には破綻してしまう──そんな現場を何度も目にしてきました。このような文化では、持続可能な開発など到底実現できないと確信しています。

そんな中で出会ったのが「アジャイル宣言」でした。意欲ある人々を集め、開発者と日々対話を重ねながら、動くソフトウェアを小さく、素早く、そして継続的に届けていく。この考え方に深く共感し、今ではそれが私たちの開発文化の中核をなしています。

その思想を実践するために、私たちはプロジェクト初期の段階から明確なルールを設けています。

構想を描き、方向性を示すのはマネジメントの責任。そして、技術的な判断と実装は、信頼するエンジニアに委ねる──。

この役割分担の線引きを徹底することが、開発の質とスピードの両立、ひいてはチーム全体の健全性につながると信じています。

それでも、非エンジニアの立場から開発チームと連携するのは、簡単なことではなかったのではないでしょうか。

猪瀬おっしゃるとおりです。だからこそ、私は物語を使って伝えることを意識しました。よく例に出すのが、イソップ寓話の「3人のレンガ職人」の話です。

目の前のブロックをただ積むのではなく、「自分たちは、世界中の人々が集まる大聖堂をつくっている」という構想を持って仕事にあたってほしいと伝えました。そのためには、プロダクトオーナーたちが、その構想を明確に示す必要があると感じています。

牧野私はスクラムマスターとして、エンジニアの方々がスムーズに動けるよう、制度や申請フローなどの障壁をできるだけ取り除くことを意識しました。情報の伝え方にも工夫を凝らし、口頭だけでの説明に頼らず、ツールを使った図解やテキストでの情報整理などを通じて、意図のズレを最小限に抑えるコミュニケーションを心がけていました。

Graat社の支援は「生きた辞書」のような存在

Graatに支援を依頼された背景について教えていただけますか。
モデレータ Graat鈴木

猪瀬きっかけは、鈴木さんの講演を拝見したことでした。

特に印象的だったのが、「ストラングラー・フィグ(締め殺しの木)」の比喩です。既存のモノリシックなシステムに新しいサービスを徐々に巻き付けて置き換えていくという考え方が、非常に腑に落ちました。

私たちのように長い歴史を持つ重工業の企業では、膨大な数のレガシーシステムが今も稼働しています。そのため、既存のシステムと完全に決別し、一気にマイクロサービス化へと移行するのは現実的ではありません。

むしろ、モノリシックなシステムと共存しながら、段階的に移行を進める方が実情に即したアプローチだと考えています。

そうした複雑な課題を抱える中で、実務に裏打ちされた知見をもとに講演をされていた鈴木さんの考え方に強く共感し、「ぜひ一緒に取り組んでいただけないか」とご相談させていただいたのが始まりです。

牧野Graatのご支援で特にありがたかったのは、場当たり的な対応ではなく、「構造的に課題を解決していく視点」を常に持ってくださっている点です。

たとえば、ある時期にチーム内のコミュニケーションに課題が生じた際、LeSS(Large-Scale Scrum)の考え方を取り入れた再編をご提案いただきました。

チーム編成を見直したことで、それぞれが役割を明確に意識しやすくなり、結果的に開発がとてもスムーズになったのです。チーム全体の士気向上にもつながったと感じています。

猪瀬Graat社は、技術的な知見を提供するだけでなく、組織づくりやプロセス改善にもニュートラルな視点で助言してくださいます。ある意味で「生きた辞書」のような存在ですね。本に書いてあるような理想論ではなく、現場の制約や悩みに即したアドバイスをいただけるので、非常に心強いパートナーだと感じています。

開発組織がアジリティを獲得

プロジェクトを進める中で、特に重視している考えがあればお聞かせください。

牧野システム開発において「真に必要な要素」を引き出すには、対話が不可欠だと考えています。

たとえば、ユーザーが「足の速い馬がほしい」と言っていた場合、それをそのまま受け取るのではなく、その背景を掘り下げていく必要があります。すると実際には、「鮮度が重要な物資を運びたい」という目的があるとわかる。その場合、速い乗り物ではなく、冷蔵庫を作らないといけない。

こうした考え方が組織に根づいた結果、エンジニア同士のやり取りにおいても、単なる技術的な議論にとどまらず、「これは本当にお客さまのためになっているのか?」という視点で意見を交わすことが当たり前になってきています。

ここまでのお話を伺う中で、「LANDCROS Connect」の開発では、さまざまな文化的・技術的な試行錯誤があったことがよくわかりました。こうした取り組みを経て、御社のチームにはどのような力が備わったとお考えでしょうか?

猪瀬私たちが得た最大の成果は、「アジリティ」だと思っています。変化に対応できる柔軟性と、それに対する自信を獲得できました。これは、これまで数年かけて積み上げてきた信頼関係の結果であり、一朝一夕に得られるものではありません。この組織で、今後さらにサービス開発を加速させていきます。

御社のすごさは、「ビジネスと開発が地続きになっていること」だと感じます。プロダクトの裏側には常にエンドユーザーや代理店とのやり取りがあり、開発の現場でも、それをどう届けるかが意識されています。教科書的なアジャイル開発のやり方にとらわれず、「自分たちに適したやり方で成果を出す」という姿勢が、何よりも印象的でした。

全員ありがとうございました。

Graat Point 01
既存システムを維持しながら DX向けプラットフォームを実現

DXを推進するためには、その基盤となるプラットフォームの整備が必須となります。Graatでは、企業が既存システムを維持しながら、新たにDXに取り組むためのプラットフォームを構築していくノウハウを有しており、その実現を支援します。

Graat Point 02
アジャイルを組織の中で機能させる

アジャイルプロセスは、システム開発手法のみならず組織全体を変革する力を秘めています。 Graatの組織アジャイル化支援では、チームプロセス支援のアジャイルコーチングと、組織プロセス支援の各種ワークショップ、コンサルティングを組み合わせて、お客様の組織のアジャイル化を推進します。