アジャイル と生産性・3 - アジャイル導入効果を測定する成果指標のモデルケース

約4年前
浅木 麗子
執行役員
浅木 麗子

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前回エントリーでは、付加価値生産性の向上を定量的に評価するための指標設計に、OKRを応用する考え方を紹介しました。今回と次回は、2回に分けて、成果指標の詳細を解説します。

紹介する成果指標は「価値につながる作業の比率」というものです。
チームのベロシティをトラッキングする習慣は、徐々に定着しつつありますが、今回紹介する指標は、ベロシティの量的管理から、さらに一歩先へと踏みこんでいます。
言うなれば「ベロシティの内訳」を戦略的にコントロールし、チームの付加価値生産性を高める取り組みです。

まず、今回は、指標設計のモデルケースを紹介し、次回は「価値につながる作業の比率」目標値の設定と、指標のトラッキングにおける注意点を解説します。

モデルケースの基礎情報

ここで紹介するのは、架空のスマートフォンアプリを例にとった指標設計のモデルケースです。
架空のケースとはいえ、私たちの支援活動から得た指標設計のエッセンスを盛り込んだものであり、参考にしていただける部分は少なからずあると考えています。

チームの位置づけ

  • プロダクトチームは、コンシューマー向けWebサービスを運営する企業に属し、スマートフォンアプリの開発・保守・運用を担当している

  • サービスの主要部分はWebサイト側で提供しており、アプリの主目的は、自社サイトの有料サービスへのユーザー誘導(送客)である

チームの成果指標設計の現状

  • アプリのKPIは「月間ダウンロード数」「MAU(月間アクティブユーザー数)」「クラッシュ率」を始め、約20項目が公式に定義されている

  • KPIのオーナーは企画部門で、日次のトラッキングと、週次のマネジメント向けレポート作成を行っている

  • 公式に定義されたKPIと、開発チームの成果指標の関連は明確になっていない(実質、関連がない)


指標設計のモデルケース

チームが実施した指標設計実の手順は、次の通りです。

  1. 定義済みのKPIから、開発チームの3ヶ年の活動方針を設定(開発チームの中期O)
  2. 中期Oを評価する定量化指標を設定(開発チームの中期KR)
  3. 中期KRを達成する方策を、四半期のアクションアイテムレベルまで分解
  4. アクションアイテムの達成を定量化する計算式を定義し、成果指標とする


OKRのフレームワークを応用し、上位の定性的な目標とチームのアクションの関係を整理した図は、下掲の通りです。

成果指標の設計例

以上の手順を経て、チームは「価値につながる作業の比率」という四半期成果指標を設定しました。
目標値は、現状の52%を65%まで引き上げるというものです。
(実際には、チームの四半期目標が一点だけというケースは稀ですが、説明をわかりやすくするために一つの指標に絞って解説しています)

モデルケースの解説

図を右から左に見て行くと、

  1. PBIを「新機能」と「それ以外」に分け、工数配分を決めて実施する
  2. その結果、リリース件数に占める新機能の割合を増やすことができる
  3. その結果、年間新機能リリース数の目標値を達成することができる
  4. このことと、並立する中期KR「年間リリース件数」および「新機能利用率」の目標達成との組み合わせにより、チームの中期O(魅力的な機能を頻繁にリリースし、定期的に開きたくなるアプリを提供する)を実現することができる
  5. このことが、定義済みKPIである「MAU」の目標達成に寄与する
  6. MAUの目標達成は、アプリ全体の中期目標(有料サービスへの送客を増やす)に寄与する

という構造が読み取れます。

このように、チームの日常的な活動から上位のビジネス目標までの論理構造を、わかりやすく整理できる点が、OKRフレームワークのメリットです。

また、階層構造の作り方だけでなく、「価値につながる作業の比率」という指標も、伝統的な日本企業のチームに適用しやすい、汎用性の高いものです。
この指標の背景にある「ベロシティの内訳」を戦略的にコントロールするという考え方は、機能別組織へのアジャイルプロセス適用において、特に有効だからです。

次回エントリーからは、「価値につながる作業の比率」の目標値設定、および指標トラッキングの進め方を解説しつつ、機能別組織でこの指標を活用することの意義についても触れていきたいと思います。

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