善意で舗装された「設計チーム」という罠に落ちないために
はじめに(「地獄への道は善意で舗装されている」)
ユーザー系企業やSIerが複数チーム構成のスクラムに取り組む際、「各チームに設計者(=高度な設計スキルを持つエンジニア)がアサインできない」という課題に直面するケースがよく見られます。
課題の背景は、従来型開発手法とスクラムの発想の差があります。
従来型開発手法では、少数の設計者による設計を、多数のコーダーに渡す体制でも成立します。
一方、スクラムでは、各チーム毎に設計スキルが求められるため、設計者が少数しかいない組織では上記課題が発生しがちです(さらに、この種の組織では設計者が"ヒーロー"として様々なプロジェクトにアサインされていることが多く、チームへのアサインをますます難しくします)。
こうして多くの組織が、上記の解決策として、スクラムチームの外に「設計チーム(要求分析チーム、アーキテクチャチーム、 PO支援チーム等、組織によって呼び名は様々です)」という少数の設計者による設計専門のチームを作ります。
さらに、設計チームの発想の根底にマネージャーやベテランの「経験の浅いメンバーには、適切な難易度の仕事をアサインすることで徐々に成長を促そう」という「善意」や「親心」があることが、この問題をますます根深いものとします。
しかし、「地獄への道は善意で舗装されている」という有名な警句通り、設計チームを作った組織がスクラムの頓挫まで追い込まれるケースをいくつか見てきました。
そこで今回は、設計チームの問題点と、回避するためにすべきことを論じていきます。
設計チームの問題点
設計チームが問題なのは、以下のようにプロダクトだけではなくスクラムチームに対しても、様々な弊害を及ぼすことです。
弊害は大きく分けて以下の3種類に大別されます。
- コミュニケーションパスが増えることによる弊害
- 要求元(PO)ー設計チームー開発チームと、やりとりが増え、開発速度が低下する
- 上記のやりとりで生じる誤解や伝達漏れが、手戻りや不具合を発生させる
- 開発メンバーをスポイルすることによる弊害
- 要求の背景やエンドユーザーが伝えられないため、プロダクトへのオーナーシップが育たない
- 設計スキルが向上せず、いつまでも自身で設計できない
- 指示待ちのメンタリティが形成され、自律的に動けなくなる
- 設計チームの設計の弊害
- 設計チームの設計は過剰で、多くのものがムダになりやすい
どの弊害の影響も大きいですが、経験的に一番影響が大きいのは「指示待ちのメンタリティが形成され、自律的に動けなくなる」です。
一度指示待ちのメンタリティが形成されたチームを再び自律的なチームに立て直すには、数ヶ月単位の長い期間が必要です。
どうすれば良いか
開発メンバーのサポートに徹する設計者
スクラムチームだけでは設計スキルがまかなえず、設計者のサポートが必要な場面はあります。
その場合、設計者だけで設計チームを作るのではなく、設計者はスクラムチーム内外で開発メンバーのサポートに徹するという発想の転換が必要です。
設計者の具体的なサポート例を以下に示しますが、いずれにしても設計者は「極力自分で手を動かなさいこと」「開発メンバーへの先生やコーチとして振る舞うこと」が重要になります。
- 開発メンバーによる設計作業を観察し、フィードバックする
- 開発メンバーによる設計の成果物を確認し、フィードバックする
- 一時的にスクラムチームにジョインし、設計方法をガイドする
- 一時的にスクラムチームにジョインし、モブワークで設計し、開発メンバーにスキルトランスファーする
学習
また、学習も重要です。
設計者のサポートに頼るだけではなく、スクラムチームが機能横断的になるように、開発メンバー自身が設計スキルを学習していくことも重要です。
また、従来型開発手法に長けた設計者も、開発メンバーをサポートするためには、TDD(テスト駆動開発)や進化的アーキテクチャなど、アジャイル開発特有の設計方法論やプラクティスについて学ぶ必要があります。
プロダクトオーナーやマネージャーに理解や支援を得ながら、 スクラムチーム内の開発メンバーはもちろんのこと、従来型開発手法に長けた設計者も、継続的に設計スキルを学習する時間を確保しましょう。
おわりに(「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」)
今回は、大規模なスクラム開発における、設計チームの弊害とその回避策を述べてきました。
もちろん、この問題は設計だけではなく、品質保証、UXデザイン、マーケティング等あらゆる専門分野に当てはまる問題です。
また、専門家が先生やコーチに徹しようとすると、はじめのうちは、思う成果を上げられないメンバーに歯痒い思いをするかと思いますが、この期間はスクラムを成功させるための税金だと思って、我慢しましょう!
今回のブログは有名な警句を引用して始めたので、別の有名な警句で閉じたいと思います。
「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」
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