組織にスクラムを浸透させるための冴えたやりかた(スクラムガイド読み合わせのススメ)
はじめに
前回のエントリでは、大規模アジャイル特有の課題をあげました。
今回からは一つ一つの課題に対し、有効だったアプローチを中心に、解決の方向性を述べていきたいと思います。
今回は、「アジャイルやスクラムの理解が表層的だったり、人によってバラツキがある」という課題を取り上げます。
ここでは「アジャイルやスクラムの理解が表層的」ということを、「アジャイルソフトウェア開発宣言」や「アジャイル宣言の背後にある原則」や「スクラムガイド」を読まずに、あるいは、意識せずに形だけスクラムの要素を取り入れることと定義します。
「アジャイルやスクラムの理解が表層的だったり、人によってバラツキがある」と一体何が困るのでしょうか?
まずは、下記のように誤解されたままスクラムが運用されていることが多く、スクラムの効果が得られにくいことが挙げられます。
- スクラムマスターがチームメンバーに逐一指示を出している
- デイリースクラムがリーダーへの進捗報告となっている
- スプリントレビューでプロダクトオーナーの機能受入をしている
- 顧客やビジネス部門不在で開発者のみでスクラムを実施している
さらに、スクラムの様々なルールに従っているのに一向に有効性が実感できないため、メンバーのモチベーションが徐々に低下していくのも大きなデメリットです。
このような現場では高い確率でチームメンバーは言います。
「スクラムをやる意味はあるのだろうか?」
この課題は、1チームであれば比較的容易に修正することができますが、大規模になればなるほど課題は深刻化し、修正が困難になります。
バック・トゥ・ザ・スクラムガイド
この課題に対して複数の現場で有効だった方法は、メンバーでスクラムガイドの読み合わせをすることです。
このとてもシンプルな方法が効果を発揮するのは、下記の理由のためと筆者は考えます。
- 自分自身でテキストを解読することによる、スクラムの"自分ごと化"の促進
- スクラムの正しい理解向上による、効果の最大化
- チームビルディング
1. 自分自身でテキストを解読することによる、スクラムの"自分ごと化"の促進
スクラムについてのわかりやすい入門書やスクラムガイドの解説はあふれているのに、なぜあえて抽象的かつ難解なスクラムガイドを読み合わせるのでしょうか?
最大の理由は、スクラムガイドの様々な言葉を自分達で頑張って解釈する中で、スクラムの"自分ごと化"が促進されるためと筆者は考えます。
「スクラムは抽象クラス」というブログにもある通り、スクラムは責任やイベントをどのようにこなすかは定義されておらず、それらは実践者が具体化することではじめて価値があるものになります。
スクラムガイドの読み合わせは、プロセスのオーナーシップを持ち、スクラムを具体化するのは自分達なのだと自覚する第一歩となるのです。
2. スクラムの正しい理解向上による、効果の最大化
前述したスクラムに対する多くの誤解は、スクラムガイドを読み合わせることで回避できます。
また、スクラムガイドでは(まだ書籍やブログでは言及が少ない)三本柱や価値基準が重視されています。
スクラムガイドを読み込むことで、(たとえば、「受入基準が漏れていたことを、勇気を出して公開しよう」というように)三本柱や価値基準を日々の行動や意思決定の基準としてメンバーが活用できるようになれば、スクラムの効果をさらに得やすくなるでしょう。
3. チームビルディング
以前支援していたチームは、「リファクタリング」の定義が全員異なったままリファクタリングを実施し、混乱に陥っていました。
スクラムに限りませんが、言葉の定義をはじめとする共通認識を揃えることはチームビルディングとしても効果的です。
また、スクラムガイドは、チームが不足していることやこれから目指すべき場所をチームに教えてくれます。 様々な意味でスクラムガイドの読み合わせはチームビルディングとしても効果が高いのです。
具体的な方法とヒント
最後にスクラムガイドの読み合わせの具体的な方法やヒントをご紹介してブログを締め括りたいと思います。
筆者がよく提案する方法は、スクラムガイドの項目毎に輪読しながら、以下について話し合う方法です。
スクラムガイドは20ページにも満たないため、輪読しても数時間で実施できるので、チームにもそれほど負担がかからないでしょう
- 用語の意味や解釈
- わからないこととその回答
- 感想
- 重要だと思った所
読み合わせにあたってのヒントや注意点です。
- 読み合わせ会に、ふりかえりや学習項目の優先順位づけなどのアジャイルやスクラムのプラクティスを取り入れてみましょう。スクラムの定着効果をさらに高めることができます
- スクラムガイドの解釈はメンバーや時間の経過によって変化していくため、定期的に実施して変化を観測すると良いでしょう
- 今回のブログでは言及しませんでしたが、アジャイルソフトウェア開発宣言とアジャイル宣言の背後にある原則の読み合わせもスクラムガイドと同等またはそれ以上に重要です。是非こちらも読み合わせましょう
- スクラムガイドは改訂毎に抽象的になっているため、スクラム未経験のチームがスクラムガイドをいきなり読むハードルは上がりました。そこで、スクラム未経験のチームは数スプリント実施後に実施すると良いでしょう
おわりに
今回は「アジャイルやスクラムの理解が表層的だったり、人によってバラツキがある」という課題の解決の方向性を述べてきました。
スクラムガイドの読み合わせはチーム内で実施するのも良いですが、経験豊富なアジャイルコーチによるサポートやガイドを組み合わせると、さらに効果的です。
アジャイルコーチのガイドによるスクラムガイドの読み合わせを体験したい方は、お気軽にGraatにお問い合わせください。
今回も最後までお読みいただきありがとうございます!
次回のエントリもどうぞお楽しみに!!