スクラムからカンバンに移行したい時に読むブログ(前編:カンバンについての誤解を解く)

約1年前
斎藤 紀彦
アジャイルコーチ
斎藤 紀彦

はじめに

「スクラムが自分達の状況に適していないため、スクラムからカンバンに移行したい」というご相談が、お客様よりまれに寄せられます。
しかし、スクラムからカンバンに移行したチームが、期待した効果が得られないどころか、さらなる混乱に陥いるケースも珍しくありません。
様々な原因が考えられますが、カンバンへの様々な「誤解」が判断や意思決定を曇らせていることが大きな要因ではないかと考えています。
こうした考えに至ったきっかけは、カンバンのガイダンスであるカンバンガイドの翻訳レビューを実施させて頂いたことでした。
そこで、前後2回のブログに分け、カンバンに関する誤解を解き、スクラムからカンバンに移行したい際に本当に考えるべきことをあらためて考えていきたいと思います。
前編では、カンバンについてのよくある誤解を取り上げます。

誤解1: カンバンとスクラムは二者択一である

カンバンとスクラムは二者択一であるという誤解がよく見受けられます。
しかし、カンバンとスクラムはどちらかを選択するというよりも、むしろ、お互いを補完するために利用する相互補完的な関係と言った方が適切です。
事実、多くのスクラムチームでは、意識しているかどうかに関わらず、スプリントバックログやアイテムの着手から完成までの流れをカンバンのプラクティスである「カンバンボード」で管理しています
(さらにWIPを制御しているチームも多数あるでしょう)。
また、多くのカンバンチームも、たとえばワークフローの改善のためにスプリントレトロスペクティブに類する会議体を設定しているなど、スクラムのプラクティスを参考に導入しています。

「スクラムからカンバンに移行したい」という際には、スクラムを完全に忘れてカンバンを移行するのではなく、スクラムの要素を活かしながらカンバンを実施するイメージで柔軟に考えてみましょう。
(もちろん、その場合厳密にはスクラムを実施しているとは言えませんが)

補足

具体的にどのようにスクラムとカンバンを補完的に活用するかについては以下の記事が参考になります。

誤解2: カンバンは個人タスクの見える化が目的

カンバンを導入する際は、「個人ごとのタスクの状況を見える化して共有する」という使い方がされます。
しかし、カンバンをそれだけに使っているのはもったいないです。

カンバンガイドでは、カンバンとは「視覚的かつプルに基づく仕組みによるプロセスを通じて、価値の流れ(フロ ー)を最適化するための戦略」として位置づけられています。具体的には、

  • チームのワークフローとタスクの実施状況をカンバンボードを使って視覚化する
  • チームのタスク実行力と、タスク実行状況の差分を共有し、自らが何をすべきか判断ができる
  • これによりチーム全体のスループットが最適化&改善可能になる

というような説明がされています。 つまり、カンバンガイドでは、カンバンをカンバンボードのようなツールとしてではなく、より深い「チームにおける仕事の仕方」として定義しています。
なお、チームのタスク実行力の定義については、フローごとのタスク実行可能数を定義したり、フローの実行時間を定義するなど、さまざまな方法が考えられます。
いずれにせよ、チームの計画能力と、進行状況の差分を把握する、というのが大きなポイントになります。

カンバンの導入にあたり「個人ごとのタスクの状況を見える化して共有する」という第一歩は重要ですが、そこを超えて「チームの作業が最適化される」ところまで踏み込めるとよいと感じます。

誤解3: カンバンは容易に実践できる

誤解2とも関係しますが、カンバンは容易に実践できるというイメージが見受けられます。
事実、カンバンはカンバンボードを定義してシンプルに始めることができます。
ですが、本格的に運用し始めて気づかされるのはカンバンの奥深さです。
たとえば以下の側面においては、スクラムよりもカンバンの方が「実践が困難」とも言えます。

  1. スクラムに比べカンバンのルールはシンプルでわかりやすいように見えます。しかし、逆にいえばスクラムのようなイベントや役割が定義されていないため、いかようにでも運用でき、チームで考えて埋めなければならないことが多いとも言えるのです
  2. カンバンガイドでは「変更を行うために、定期的に開催する公式なミーティングを待つ必要はない。カンバンシステムメンバーは、状況に応じてジャストインタイムの変更を行うことができるし、行うべきである」とされています。カンバンでは臨機応変な態度と絶えざる改善がチームに求められます
  3. カンバンガイドではスループット(Throughput)やサイクルタイム(Cycle Time)などの4種類の定量指標の収集と分析が必須とされます。ですが、定量指標の収集と分析はアジャイルチームにとってハードルが高い活動の一つです

カンバンは素晴らしいフレームワークですが、途中で挫折したり、そのポテンシャルを発揮できない中途半端な実践で終わらせないよう、チームメンバーでカンバンガイドを読み込み定義を揃えた上で、チームの状況に応じてステップバイステップで着実に導入してきましょう。

カンバンの導入にお悩みの場合や、より効果的に導入したい場合は、是非、Graatにご相談ください!

おわりに

今回は、「スクラムが自分達の状況に適していないため、スクラムからカンバンに移行したい」という方のために、まずは様々なカンバンに関する誤解を解くということを述べてきました。
後編である次回は、カンバンの誤解を踏まえた上で、スクラムからカンバンに移行したい際に本当に考えるべきことをあらためて考えていきたいと思います。

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